WBCで日本チームの一番打者をつとめたヌートバーは、栗山監督・ダルビッシュ・大谷翔平につづき、優勝後の「胴上げ」を体験しました。初めての「胴上げ」とあって、他の選手の手をつかみ、こわごわ宙に舞いました。
日本ではスポーツの場での「胴上げ」は珍しくありません。日本シリーズの優勝後には、監督の胴上げが恒例になっています。サッカー界にも監督の胴上げが広がっているし、大学受験の合格発表で胴上げという報道もよく目にします。歓喜の表現としての「胴上げ」は日本では見慣れたものになっています。
では、いつから「胴上げ」が始まったかとなると、意外にも記録があまりありません。歴史資料に現れたのは、江戸時代後期の『甲子夜話(かっしやわ)』(1821~41年)という随筆です。江戸城の大奥で、節分の豆まきの後に、女性たちが年男を胴上げしたという記述があります。19世紀前半にすでにあったのは確実です。
ところで平岩弓枝に『魚の棲む城』という田沼意次(1719~88年)を描いた作品があります。この小説の中には、大奥の女中たちが、節分の年男を布団ごと胴上げする場面がでてきます。フィクションですから史料ではありませんが、すでに18世紀後半には、胴上げがあったと想像がひろがります。そして、女性たちが男を胴上げするというのも、共通していて興味がつきません。(「ひろば」編集長・西條晃)
〈参考〉新谷尚紀「日本人はなぜそうしてしまうのか」(青春出版社)2012年
「スポーツのひろば」2023年6月号より