空に向かってかっ飛ばせ!|スポーツ本Review

「コーチングというのは、本来は導くという意味です。しかし、日本ではティーチングをしていることが多い。怒鳴りつけるコーチは米国でもドミニカでも見ませんでした」(朝日新聞18年11月22日付「耕論」より)

空に向かってかっ飛ばせ! 未来のアスリートたちへ
筒香 嘉智 (著)文藝春秋(2018年)

この新聞記事がきっかけで横浜DeNAベイスターズの筒香選手が出したこの本のことを知った。野球を通じて自らが歩んできた道や子供時代のエピソードなどがこの本の中心になっているが、その経験があってこその、少年野球や日本野球界への重く、深い提言が垣間見えてくる。何よりも日本を代表するプロ野球の若い現役選手から、そのような発信がなされたことに驚き、頼もしさを感じた。

彼は現在、中学生時代に自らも所属した大阪の硬式野球チームのスーパーアドバイザーに就いている。「子供たちがもっと楽しく、成長できる野球環境を作る力になりたい。そう決意したのは、子供たちの野球をする環境が変わらない限り、日本の野球に未来はないと思ったからです」

私事で恐縮だが、私のスポーツの原点は少年時代の原っぱでの三角ベースの野球。そこには怒鳴りつけるコーチもいなければ、あああしろ、こうしろというアドバイスもない。一人ひとりがヒーローをめざして「空に向かってかっ飛ばしていた」。まさに筒香選手はその原点に戻ろうと本書で呼びかけている。

兄から指導された体作りの大切さなど、スポーツ全般に関わるアドバイスも随所に見られる。そこから産まれたテレビ中継で観た筒香選手のボールに逆らわずにきれいにレフト前に放ったヒットの映像が眼に焼き付いている。

プロスポーツも市民スポーツも”勝つ”ということに重きを置き過ぎて”スポーツを楽しむ”という気風が薄れている気がする。この本はそんな時代への警鐘とも言えるだろう。野球関係者はもちろんのこと、多くのスポーツ愛好者に一読してもらいたい一冊だ。(ひろば編集委員・小林一美)

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