子どもたちは学校で、「オリンピックってなに?」という課題を与えられて、考えてみよう、調べてみようとしています。この本は、小学校高学年から中学生に、オリンピックを考えるヒントと、何をどう調べたらよいかを教えてくれます。
「オリンピックってなんだろう?」という第1の問いから、「未来のオリンピック・パラリンピックはどうあったらよいだろう?」の第12問まで、まず問題を立ててそれに答えつつ、さらに突っ込んで考え、深く調べられる工夫がされています。
読みこんでいくと、著者の熱い思いに打たれるところがあって、単なるオリンピックの解説本ではありません。例をあげてみましょう。日々の新聞・テレビの報道では、国と国がメダルの数を競っているような錯覚に陥ります。
しかしオリンピック憲章では、「個人種目または団体種目での選手間の競争であり」と述べています。国別の競争ではなく、選手間の競争なのです。「じゃあ、表彰式で国歌や国旗が出てくるのはどうして?」という疑問がでてきます。著者によると、国歌・国旗廃止が多数派です。1968年に国歌・国旗の廃止についての投票がおこなわれました。投票結果は、廃止賛成34票、廃止反対22票で、廃止賛成が多数になりましたが、3分の2に満たなかったので、あと一歩で廃止できなかったのです。
また、オリンピックは、競技で誰が世界一かを決めるだけではないこと、なによりも戦争を止めて、人間の尊厳を大事にする平和な社会を目指すことにあるという根本原則も、第1問の「オリンピックってなんだろう」で述べています。
小・中学生だけでなく、大人の疑問にも応えてくれます。大会の費用はいくらかかるの?(第9問)、つくられた施設はどう活用されるのか、レガシーとは?(第11問)、記録はどう伸びてきたのか?(第4問)などなど、興味は尽きません。
オリンピックと言えば、平和を忘れて競技会だけに目を向け、しかも国別のメダル争いへと矮小化して報道するマスメディアの人々に、ぜひ読んで考え直して欲しいとも思いました。(西條晃)