42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」|スポーツ本Review

高速化するマラソンのルーツ

2時間2分57秒。男子マラソンの世界記録(15年7月現在)が、2時間を切る日も夢ではなくなりそうだ。ここ数年、東アフリカ出身ランナーのあいだで、熾烈な記録争いが繰り広げられている。

42.195kmの科学 マラソン「つま先着地」vs「かかと着地」
NHKスペシャル取材班 (著)
角川oneテーマ21(2013年)781円+税
新書・194ページ・カバー付き

世界ランキング50傑を見ると、ケニアとエチオピアの2ヶ国でほぼ独占されているのだ(それ以外の国はわずか4人)。なぜ東アフリカ勢はマラソンが強いのか? 本書は、マラソン世界記録保持者たちに密着したNHKのドキュメンタリー番組(12年7月放送)を書籍化したものである。

この番組プロジェクトでは、2時間3分台の記録を樹立したゲブレシラシエ(エチオピア)、マカウ(ケニア)を最新技術をフル活用して科学的に分析。「マラソンを高速化させた肉体の秘密」に迫っている。

そのなかで、注目されたのは着地の仕方。2人とも、足のつま先に近いところで着地をしていた。つま先着地はマラソンには不向きとされてきたが、東アフリカ出身ランナーの特徴だという。さらに特殊なセンサーで分析すると、マカウは、つま先から着地することで地面から受ける衝撃を減らし、非常に効率的な走りをしていることが判明した。

それなら他の国も真似すれば?と思うかもしれないが、そう簡単にはいかないらしい。つま先着地は、アフリカ特有の環境で育ったランナーだからこそなせる業で、日本人にはまず真似できないそうだ。

結局、東アフリカ勢の走り方は、市民ランナーにとってはあまり参考にならないかもしれない。しかし「どうやってムダのない走りをするか」は共通の課題。それを追求する姿勢は学ぶべきことが多い。42・195㎞を走るというシンプルな競技のなかに潜む〝ディープな世界〟を感じる一冊である。

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