桜色の魂 チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか|スポーツ本Review

桜色の魂
チャスラフスカはなぜ日本人を50年も愛したのか
長田渚佐(著) 集英社文庫 2021年
748円(税込)328ページ

日本人との魂の交流を追う

チェコスロバキアのベラ・チャスラフスカと言えば、前回の東京五輪(1964)とメキシコ五輪(1968)の女子体操個人総合2連覇を飾った選手。それまでの体操選手にはなかった映画女優を思わせる金髪と美貌で「東京の名花」として日本中を魅了しました。

彼女と日本の接点は1960年のローマ五輪。まだ技術も経験も乏しく、選手としての未熟さを痛感していた時に理想と思える選手団に出会う。それが五輪団体で初めて金メダルに輝いた日本男子選手団。大会期間中はいつも屈託なく楽しげで平常心を失わず、実にさりげなく大技を演じる、日本選手の練習や日常生活に密着し続け勉強していたといいます。

ローマ五輪の後プラハでの世界選手権(1962)で女子2位となった彼女。きしくも同じ男子2位となった遠藤幸雄とは生涯親交を深める。東京五輪の後、チェコに帰国した彼女は、当時同国内での民主化運動「プラハの春」に加わり「二千語宣言」に署名。その後1968年8月ワルシャワ条約機構によるチェコ侵攻後にこの署名を撤回するようしつこく迫れるも頑として認めなかった彼女。メキシコ五輪では金メダルを手にするも母国では迫害を受け長期の隠遁生活に。1989年ソ連崩壊、ビロード革命後の新政権内で政府高官として返り咲き日本との交流も復活。

何度か来日する機会があり遠藤等との交流も実現。なぜ長きにわたり日本を愛したのか?彼女が語った言葉が印象的でした「日本は世界で唯一の被爆国であり、自分たちが作りだしたものでないにしろ、日本は戦争をしないという平和憲法を大切にして70年も戦争をしないできた素晴らしい国です。世界に誇る平和憲法をこれからも大切にして世界の手本となって頂きたい。」

ウクライナ、ガザと戦火が絶えない今、彼女のメッセージを今一度噛みしめてほしい。そんな一冊です。(「ひろば」編集委員・園川峰紀)

「スポーツのひろば」2024年7・8月号より

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