
オリンピックを目指した7人のストーリー
杉田七重 他 (著)KADOKAWA(2021年)
平和を考えるためのスポーツ本
戦争への反省から「スポーツは平和であってこそ」と思われてきた。だが、内戦の中で、スポーツを通じて平和を築こうとしている人々もいる。「スポーツと平和」の多様性を、本の解説を読みながら考えてみよう。
オリンピックは国を代表する選手が参加する建前になっていて、内戦や迫害で他国へ逃れた選手が参加することはできませんでした。ところが2016年のリオデジャネイロ五輪では、国を代表しない難民選手が出場しました。本書は、リオ五輪に参加した7人の難民選手を紹介したジュニア向けの本です。
内戦を逃れたシリアの水泳選手が2人、やはり内戦を逃れた南スーダンの陸上選手が3人、コンゴ共和国から逃れた柔道家、エチオピアから出たマラソン選手の7人です。
空爆に追われてシリアを離れ、ゴムボートで海を渡ったユスラさんは、ボートがエンジンの故障で動かなくなり、交代で海に飛び込んでボートを押して陸地にたどりついた体験を語っています。
南スーダンの内戦を逃れて、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の難民キャンプを経由してケニアの学校へ移り、友達のシューズを借りてレースに出ていたチェンジェックも、難民選手団の一人になりました。同じ南スーダン出身の女子選手ロコニエンは、「難民に必要なのは、本人のやる気と、教育の機会、周囲からの支援」だと言っています。
私たちにできることは何だろうか。まず、難民問題と難民のスポーツ選手を知ること、彼らの伴走者として一緒に希望に向かって進むことではないでしょうか。
新スポ連は、「スポーツは平和とともに」というスローガンを掲げてきました。平和な世の中を何時までも続けつつ、スポーツを楽しもうということだと思います。
日本では戦争が終わってから80年、内戦(西南戦争1877年)から148年、平和を続けてきました。しかし最近は、軍事増強・武器輸出とか、「台湾有事」に備えて石垣島の住民を本土へ輸送する計画など、キナ臭いニュースが後を絶ちません。
「軍事優先」社会ではなく、平時にも災害救援に備える、市民がスポーツを楽しめる、平和が続く社会を目指したいものです。
「スポーツのひろば」2025年6月号より