ダブル・トライ|スポーツ本Review

スポーツ界での二刀流で話題となるのは、言わずと知れた米大リーグ・エンジェルズで活躍中の大谷翔平選手の投手と打者の二刀流を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、この小説の主人公・神崎 真守(26才)は、何とラグビー、それも通常の15人制とは違う相当な身体能力が要求される7人制ラグビーと円盤投げという全く異質の競技での二刀流でオリンピック出場を目指すトップアスリート。

ダブル・トライ DOUBLE TRY
堂場瞬一(著)講談社 1700円
2020年5月

そして通常のスポーツ選手ではあり得ない能力に目を付け、何とかして主人公と専属契約を結び、自社製品の販売強化に利用しようと奔走する某スポーツ関連グッズ販売会社の社員・岩谷大吾(37才)との確執。更には円盤投げでは長い間日本のトップ選手として君臨し主人公がひそかに尊敬してきた中年アスリート・秋野泰久(33才)の3人を中心に物語は進む。

舞台の始まりは、2018年6月の陸上日本選手権。フィールドでは神崎と秋野の円盤投げの競技が行なわれている。何と神崎はラグビー選手でありながら並み居る古手の円盤投げの選手を押しのけて日本記録に迫る記録をたたき出し、秋野のお株を奪う記録に観客も唖然とする。

それまでラグビーの選手として活躍し、2020年の東京オリンピックでは7人制ラグビーの日本代表として出場すると思われていた選手が、ポットでの陸上大会でそれまでの日本記録を破ろうかというパフォーマンスには誰しもびっくりするはず。

もっとも、本人は高校時代から円盤投げは続けており、周囲の興奮と裏腹に冷静そのもの。しかしながらこのような逸材を関係者は放っておくわけがない。本人は純粋に二つの違った競技をやりたい、自由な時間が欲しい、と関係者のラブコールにはそっぽを向くが、何時しか本人の意向とは別に、いわゆる大人の事情で渦中の人となっていく。そしてフィナーレの2020年6月の陸上日本選手権大会の舞台では、オリンピック出場を半ば諦めていた秋野のどんでん返しが待っていた…。

現実の世界ではあり得ない“二刀流”で東京オリンピック代表を目指すアスリートが主人公の小説で、スポーツ界を取り巻く裏事情も満載。

現実の2020東京大会がコロナ禍の為に1年延期になりましたが、今まさに多くのトップアスリート達が東京オリンピックを目指し代表枠を勝ち取るために切磋琢磨している姿とダブり、まるで主人公が現実に生きているアスリートみたいに感じさせるのはさすがスポーツ作家・堂場瞬一の真骨頂と言える出来栄えです。マイナーな競技の円盤投げの深~い一面も味わえる一品です。是非ご一読を! 

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