自分たちにとって箱根駅伝とは|スポーツ本Review

俺たちの箱根駅伝
(上・下) 
池井戸潤著 文芸春秋 2024年
上下巻共に1,980円(税込)
上376ページ 下336ページ

 本作品は、一時期箱根駅伝の常連校であったものの、今では予選会落ちが続き、出場機会が遠のいてきた「明誠学院大学陸上部」を舞台にして繰り広げられる人間ドラマ。ご存知のように箱根駅伝は、前年大会10位以内のチームにはシード権が付与されますが、11位以下のチームは予選会からの出場を余儀なくされます。そして、わずかの差で涙を呑むチームもあり、予選会会場では悲喜こもごもの光景が繰り広げられる訳です。

 本作品に登場する明誠学院大学は、わずか10秒差で出場権を逃す結果に終わります。一人その責任を負った同大学4年生の主人公・青葉隼人は、図らずも関東学生連合チーム(通称「関東学連」)メンバーに選出。予選会出場した各大学の個人成績上位16名の寄せ集め所帯の中でキャプテンに選ばれる展開に。長年務めてきた監督の辞任により交代で赴任してきた新監督・甲斐真人は、明誠学院OBであるものの監督としての経験は「ゼロ」。しかも、最初のミーテイングで「チームの 目標は三位相当以上とする」とぶち上げる。
 
そんな中、監督の考え方に同調する選手や反対する選手もあり青葉キャプテンの心労は増すばかり。その上、マスコミも甲斐監督が打ち上げた「三位相当をめざす」ということに冷ややかな態度。箱根駅伝を中継するテレビ局も事前の情報収集もあまり熱心ではない状況。しかし、チーム内では青葉キャプテンを含めた「地殻変動」もあり一枚岩となって本番を迎えます。そして、関東学連チームの各選手の健闘が1区から10区までの全区間で発揮され甲斐監督が望む方向に?そこに「俺たちの箱根駅伝がある!」と。

 池井戸作品は、どの作品も読者をぐいぐいと作品内に引き込み、まるでその場にいるような感覚を与えてくれます。次の箱根駅伝が待ち遠しくなること請け合いです!

「スポーツのひろば」2024年12月号より

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