みんなで考えよう! 体罰のこと|スポーツ本Review

みんなで考えよう! 
体罰のこと 
神原文子・田村公江・中村哲也編著 
解放出版社 2024年
2,750円(税込)280ページ

暴力と決別した指導とは?

2012年12月、大阪桜宮高校バスケットボール部のキャプテンが顧問からの度重なる暴力・暴言を受けて自殺した事件を境に、スポーツ界、特に学校の部活内での体罰問題は官民様々な方策が講じられてきました。しかしながらその後も部活における「体罰」事件は後を絶たず根絶には程遠い状況です。

本書は 2013年2月設立された「反体罰NPO・研究者連絡会」が体罰のない社会づくりに向けて集会を開き、その後2015年1月「体罰をみんなで考えるネットワーク」へと発展的に活動を展開していく中で、同連絡会が行った講演録(合計7編)が収められています。第1部「学校における体罰」第2部「スポーツと体罰」第3部「子育ての中の体罰」の3部構成で関心があるテーマに沿ってどこからでも読める構成となっています。

7編の講演録の一人・中村哲也氏は、以前このコラムで「体罰と日本野球~歴史からの検証」を紹介していますので馴染みがある方と思います。「なぜ体罰はなくならないのか?」について、スポーツ推薦入試の存在と指導者への処分の甘さを挙げ、体罰をなくすための提言として「1校1部制を改めて、高校段階、中学段階でも多様なスポーツ環境の提供を行うこと」でスポーツ界から体罰をなくすことは可能と強調しています。現在スポーツ庁では中学部活動の地域移行を進めていますが、体罰を根絶するためにも同氏の主張が生かされることを期待したいです。

また、本書を読み進めるなかで印象に残ったのは、島沢優子氏の講演録「暴力と決別した指導」としての事例紹介です。「子どもを不安がらせたり、煽るのではなく、まずは安心させ、心地よくさせる事で子供は自ら歩んでいく、その後ろ姿を見ながら支えていくのが大人の役目なのかなと思う。」の下りです。ともすれば上から目線で対応しがちな指導者が散見される中で名言と感じました。
 

「スポーツのひろば」2024年12月号より

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