

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
私たちの「身体組成」は毎日の摂取カロリー(食事由来)と消費カロリー(基礎代謝+活動代謝)の関係で変容しています。ただし、「昨日」の活動内容が「今日」や「明日」に即時的に反映されるわけではありません。比較的長いスパンでの身体的状況によって、糖質とタンパク質と脂質の代謝経路のどのチャンネルが活性化するのかは異なってくるようです。

長期間、非活動的な状況が続いていれば、当座の活動エネルギーは必要ないので、その分は内臓脂肪や皮下脂肪として蓄積されます。筋組織も委縮しますので基礎代謝が低下し、余剰エネルギーが増加します。
逆に毎日ランニングを継続してかつ座っている時間が少ない場合には、活動性運動代謝(EAT)も非活動性運動代謝(NEAT)も高いので余剰エネルギーは生じません。
しかし、摂取エネルギーが消費エネルギーを下回れば、肝グリコーゲンや筋グリコーゲンを分解して対応し、グリコーゲンが枯渇します(といっても50%程度)。そうすると空腹感が生じて、摂取エネルギーが適切なレベルに戻るまで摂食行動を誘発します。
「過食」と肥満や「拒食」と痩せといった相反する極端な行動様式は例外としても、私たちの摂食行動は、レプチン(食欲抑制ホルモン)やインシュリン(血糖値を上昇させるホルモン)、グレリン(摂食促進作用のあるホルモン)などの調整を受け、それらが摂食中枢の活動を調整しています。
低血糖症での空腹感や無力感などが、高揚感によって一時的に抑制される背景には、このような摂食中枢活動の調整メカニズムがあり、さらに短期間ではなくかなり長い期間にわたっての「運動・栄養・休養」のタイミングとマネジメントが影響を与えているようです。
やはり「ちょこっと!」やるだけではなく、1日24時間×1年365日をどうレイアウトするのかが決定的なようです。一方、毎日「ちょこっと15分」筋トレをやっていれば、その日の他の時間の過ごし方や食事内容を365日考えて、かつその生活を数年間継続することができれば「ちょこっと!」でも有効なようにも思います。
「スポーツのひろば」2025年3月号より