山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
私たちヒトは、発汗による体温調節のできる珍しい動物です。体内環境を極めて狭い範囲に安定させながら熱帯から氷雪環境に至るまで進出し、様々な身体活動を行ってきました。そして、体温調節に関わって「体毛」を失ったため、寒冷環境においては衣服をまとって保温をする必要が生まれました。
ちなみに絶滅したネアンデルタール人は、体にフィットする衣服を作るための「縫い針」を発明しなかったとされ、毛皮を羽織っていたようです。また身体が大きく発熱源の筋肉量も多かったようで、消費カロリーの多い分、摂取カロリーも高かったと推定されています。
運動時の体温変動に注意
私たちは「恒常性」を持っているがゆえ、暑熱環境や寒冷環境下での身体運動時の体温変動は運動遂行に大きな影響を与えます。冬のマラソンやロードレースで最近報告される「低体温症」によるリタイアや救急搬送は、深部体温が35度以下になる症状(28度以下は重症とされる)です。
厳しい環境要因(低温・雨や雪による濡れ・強い風など)によって、ペース低下(発熱量減少)や過度の放熱(対流・伝導・輻射など)が誘発され、寒さ・ふるえ・悪心(おしん)・嘔吐・意識障害等の症状がみられ、医療機関への緊急搬送も報告されています。
冬のレースは寒さ対策を
最近は選手も「アームウォーマー」「帽子」「タイツ」などで冬のレースに備えるようになりましたが、かつてはランニングとパンツという軽装で臨んで、いわゆる「30㎞の壁(筋グリコーゲンの枯渇)」で調子を崩し、疾走速度が低下して低体温症で苦しんでいる選手も多かったようです。
また、熱生産のエネルギー源である糖質摂取(たんぱく質も食後の熱生産効率が良い)も大事です。冬のレースに「空腹」で参加するとトラブルの原因となりますので注意しましょう。
(「スポーツのひろば」2018年12月号より)