急斜面が怖いのは?

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

 

 

スキーやスノボ、登山やトレイルランで急斜面や急峻な稜線に立った時、「怖い」という感覚が生ずることがあります。
まったく実体験がなければ「未知への恐怖」ですが、過去に失敗体験があり「自分には無理だ」と判断する場合でも、練習によりスキルが向上すれば対応できるケースもあります。また、同じ35度の斜面でも、高速で突入したり、脚に疲労感があったりすると不安が広がります。つまり同じ物理的条件でも「行動する側の状況」によって提供される情報の意味が違ってくるということです。助走に勢いがあれば「登れる階段」も、勢いがなければ「登れない階段」になります。

失敗体験→不安症

深刻なのは失敗体験(大転倒など)がトラウマのようになる一種の「不安(パニック)症」に類似したケースです。実はこれは「ストレス反応」と関連していて、人類がかつてサバンナで猛獣や危険動物に遭遇した時の「闘争・逃避反応」と似ています。過剰なストレス反応では、脳から送られる信号が乱れ、いわばフリーズしてしまう「凍結・闘争・逃避反応」が生まれ、「不安(パニック)回路」が形成されてしまうのです。この対処法には認知行動療法(CBT)というものがあります。恐怖の記憶を中立的あるいは前向きな記憶に置き換えるのです。

まずは可能な挑戦から…

 対人不安のある「広場恐怖症」の治療に、人気の少ないショッピングモールで何回かダッシュさせながらパニックを引き起こさない体験を積み重ねるという方法があります。この療法を実践するジョンズガード氏は、「本質的には自分を振り落とした馬の背に再び乗ること」を学ぶこと、恐怖を感じても死ぬわけではないと脳に教え込むことが大切であると指摘します。スキーであれば、急斜面を下から登っていき、可能な場所から滑り降りるという「成功体験」を繰り返して「別の回路」を作っていくことです。また、「ここは〝断崖〟ではない、スキー場の〝滑走斜面〟だ…大丈夫、大丈夫!」と思うことで、不安回路を再活性化しないことも重要かもしれません。「挑戦なくして向上なし」とはいいますが、「可能な挑戦」でなければ人は向上し成功しないものだと思うのです。

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