「厚底シューズ」の規制基準が変わりました|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈28〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

2020年12月に、世界陸連がいわゆる「厚底シューズ」に関する規定を改定しました。有効期限は2021年8月まで(五輪後)です。

全体的なポイントは、①市販されていて規則に準じていてメーカーが世界陸連に申請登録していること、②市販されているものを足のケガなどを防ぐために改造したもの(外反母趾への対応など)、③市販目的でテストシューズとして開発されたものは世界陸連に申請すること…が使用可能で、④個人のためだけ作られた市販されていない「唯一無二」のシューズは使用禁止となります。

また、トラックレースでは、800m以下の距離は20㎜以下、800m以上のレースでは25㎜以下で、例外的に競歩競技だけが40㎜以下となっています。ロードレースは従来通り40㎜以下となっています。

2021年3月のランニング学会で、東海大学の丹治史弥先生が「ランニングシューズとランニングエコノミー(効率)に関するプロジェクト」の報告を行いました。同じ40㎜厚のシューズでも、カーボンプレートを内蔵したモデルでは平均6%近くランニング効率が高く、選手によってはランニング効率が低下することを指摘しています。

さらに、カーボンプレート内蔵の厚底シューズでは「最大スピード時の血中乳酸濃度が高い」という興味ある結果を示しました。最大スピード時の血中乳酸濃度が高いということは「速筋系線維が利用されている」ということで、ランニングスキルを変えている可能性があるのです。

変わったランニングスキルがその選手とマッチしていれば、パフォーマンスが向上するようです。また、踵接地気味の選手や足首や膝をうまく使っている選手では、逆に恩恵を受けにくいようなのです。

結論はまだはっきりしないのですが、厚底だけ(当然シューズの重量が増えるのでエネルギーが必要)では、ランニング効率はあまり変わらず、フラット接地やフォアフット接地でカーボンプレートの撓(たわ)みをうまく利用することができる選手にはランニング効率改善に貢献しているようなのです。

ちなみに、陸上競技連盟未登録のランナーはどんなシューズを履いてもかまいません。30㎞地点でシューズ交換という必殺技も可能です。実はロードレースでのシューズチェックをどうやって行うのかは陸上競技連盟としても頭の痛いところです。一般の競技会では「選手召集所」でチェックできるのですが1万人を超えるレースでは「陸連登録者」だけをスタート前にチェックすることはできないので、入賞者だけゴール後シューズチェックをするしか方法がないようです。

「スポーツのひろば」2021年7・8月号より

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