「直感的予測」と「ヤマをかけること」は違うのですか?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈49〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

テニスなどのボールゲームでは、相手のショットに対して素早くかつ的確に対応する必要があります。ネットプレイでは相手方のショットのコースを予測して、絶妙のタイミングでボレーを決めます。

このように刺激に対して素早く動くことを「反応時間」といいますが、反応時間には「不応期」という概念があります。反応の方向を決めてしまうとそれをリセットするのに時間がかかりますので、相手のショットが始まってからプレイの位置に移動する必要があるのです。しかし、あまりに早いタイミングで移動を始めてしまうと相手がショットのコースを変えてきます。

有名な2014年全米オープンでの錦織vsジョコビッチのプレイでは、ジョコビッチがショットを打つ0・37秒前に動き出し、ライジングでクロスショットを打ってポイントを取るシーンがあります(NHK「0・37秒の駆け引き~錦織圭 知られざる予測能力」2015年放映)。

いわゆる「ヤマをかける」という表現は、「ヤマが外れる」ことも想定しての 〝ギャンブル〟 というニュアンスがあります。「直感的予測」は、プレイのストーリーの中での何らかの手掛かりをもとに反応を起こしているようで、おそらく、いくつかある選択肢の中からその条件下での最適な解を実行しているものと思われます。

この時に重要な役割を果たしているのが大脳基底核のようで、予測した選択肢との誤差が少ないとドーパミン作動性の「報酬系」が作動して、強化学習が成立するようなのです。

ヤマが外れると「やっぱり違ったか…!」という反応が起こるのですが、「直感的予測」では「あと一歩足りなかった…!」という、誤差が大きかったという反応になるようです。

一方、卓球のような高速で連続したラリーの中での場合には、もう少し即時的な対応もしているようです。オランダ自由大学のブーツマ先生は、トップクラスの卓球選手のスマッシュ実験のデータから、ボールとの接触直前にラケットの面が減速・変化しており、飛来するボールの知覚情報に応じて制御している可能性を示唆しています。

〈参考〉
佐々木正人「アフォーダンス-新しい認知の理論」(岩波書店)1994年

「スポーツのひろば」2023年11月号より

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