カンガルーのジャンプ力は?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈15〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

時々、TVでカンガルーが飛び跳ねているシーンが放映されます。実はカンガルーは、時速40㎞で2㎞(3分間)移動可能であるといわれていて、最大時速70㎞、最大ジャンプ幅13mという驚異的運動能力の持ち主。発情期には1日100㎞も移動することも知られていて、なぜか「瞬発力」も「持久力」も優れているのです。

長いアキレス腱で無駄のない運動を実現

これを可能にしているのが長いアキレス腱です。カンガルーは筋の収縮を利用して跳んでいるのではなく、勢いをつけた着地の際にふくらはぎの腓腹筋を緊張させます(長さを変えない)。すると長いアキレス腱に弾性エネルギーが蓄積されて、短時間で「バネ」の要素が働くジャンプを可能にしてくれるのです。つまり、あまりエネルギーを無駄遣いせずに高い運動能力を実現しているのです。

このメカニズムを支えている構造が「筋腱複合体」といわれ、垂直跳びや立ち幅跳びとはまったく異なるメカニズムが働いています。“リバウンドジャンプ”とか“プライオメトリクスジャンプ”という「落下(着地)で得られた弾性エネルギー」を再利用する運動のやり方なのです。

ランニングもこのメカニズムを巧みに利用しています。私たち人類のご先祖様は、アフリカのサバンナで30㎞近く獲物を追い回して、熱中症でダメージを与えて捕獲する戦略をとっていました(持久狩猟)。絶対速度は遅いものの継続したランニングが重要で、そのためには長いアキレス腱や大殿筋を利用してエネルギーの無駄遣いをせずに走ること(膝の曲げ伸ばしをあまり使わないこと)が必要だったのです。

また、この際には脂肪(遊離脂肪酸)からエネルギーを生産する代謝経路を活用します。糖質は大型化した脳を十分働かせるために使い、脂肪は長時間移動のために使うという戦略をとったのです。

跳ねるランニング跳ねない歩行

ランニングはこの弾性エネルギー再利用のために「跳ねる」のに対して、歩行は跳ねません。それ故、ランニングのエネルギー効率が数十%であるのに対して、歩行は18%以下であるといわれています。ところが、競歩の一流選手(10㎞38分くらい)は、なんと28%にも達していることもわかっています。

つまり、私たちには弾性エネルギーを上手に使う能力があるようで、「効率よく運動すること」は人類の才能のようなのです。

(「スポーツのひろば」2019年12月号より)

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