「タレント発掘」ということ|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈10〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

「タレント(≒才能)」があるかないかは、どのように判定するのでしょうか?
旧東ドイツでは、国家的規模での社会主義建設の課題としてスポーツが取り組まれ、国民の5人に1人が体操・スポーツ連盟に加盟し、子どもたちは全国大会(スパルタキアード)への学校の予選会を含めると300万人が大会に参加していました。各地には伝統のある「スポーツクラブ」があり、優れた能力を持つ子どもたちはそのクラブのスポーツ学校で専門的なトレーニングを行っていました(87年 NHK「金メダルへの道」より)。

それだけの多くの子どもたちの競技成績や発育発達段階に関するデータが蓄積されていることから、生物学的年齢の指標としての「最終身長」が推定され、現在の身長と最終身長との差が発達段階を決める基準であったようです。例えば、15歳で素晴らしい成績を残していても、発達段階が18歳であれば将来性がないと見られ、スポーツ学校からの退学を言い渡されるシステムです。

それだけのシステムであっても、あるスポーツ学校では100名の入学者のうち60名が退学し、うち48名は「将来性に疑問がある」との理由だったとのことで、タレント発掘の難しさがよくわかります。

日本では各競技団体が取り組んでいますが、福岡県教育委員会では、小中学生を対象に「タレント発掘事業(福岡から世界へ!)」を実施しています。4万7千人から60名を選抜し、適性検査と複数種目実施(経験)の結果から高校入学時に特定のスポーツ拠点校への入学を決定させるというシステムです(14年 NHK「15歳の決断」より)。

遺伝子検査で「向き不向き」がわかる?

現在では運動能力に関連する「遺伝子検査」が話題となっています(14年 NHK「金メダル遺伝子を探れ」)。 例えば筋の収縮特性にかかわるACTN3遺伝子検査では、瞬発型(スピード&パワー系種目向き)、持久型(長距離系種目向き)、中間型(球技向き)の3つに判定されます。ただし、問題は「予測妥当性」ということだと思います。

北京五輪400mRの銅メダリスト朝原宣治選手の詳細な検査結果では、運動能力に関わる遺伝子の11の表現型で22点満点で18点という高い評価でしたが、走幅跳で8m19の記録を持つにもかかわらず「ジャンプ力」に関する遺伝子評価が0点なのです。どうやらこの遺伝子は「垂直跳」などの「ゼロ~Max.タイプ」の動作に関連しているようで、朝原選手も「自分は垂直跳はまったくダメなんです」とコメントしています。つまり「ジャンプ力」という遺伝子も「垂直跳型」と助走を伴う「起こし回転型」では動作の性質が異なるので「ジャンプ力のタレント性の予測」は難しいということです(アキレス腱の長さも大きく関係します)。

タレント発掘は、発達段階の推定と運動への身体適性(遺伝的なものとその年齢ごとの発現型・・スピード&パワー系の発達が明らかになるのは15歳以降となること)など様々な要因がかかわるので一筋縄ではいかないようです。エプスタインは「ACTN3遺伝子の結果で予測できることは、リオ五輪の100m決勝に残れないのは誰かということだ」と述べています(エプスタイン:川俣訳、スポーツ遺伝子は勝者を決めるのか、早川書房、2014年)。

(「スポーツのひろば」2019年5月号より)

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