スポーツ前とスポーツ後にどんなストレッチをすればいい?〈1〉

構成=編集部 イラスト=いわいえみ

「最高のパフォーマンスを」「ケガをしないように」、試合でも練習でもそう思いながら準備運動をしますが、そのためにはどんなウォームアップが良いのでしょうか? 試合・練習後に疲れを残さないためには、どんなクールダウンがよいのでしょうか?

かつての常識、今は非常識?

昔は常識だったことが、時代とともに非常識に変わることがあります。傷の手当てがそうですね。擦り傷や浅い切り傷は、昔は消毒液を使って消毒し、ガーゼで覆い包帯や絆創膏で固定しました。カサブタができると治ってきたとされました。つまり消毒と乾燥が基本でした。今は軽い傷なら水道水で洗い、ジュクジュクの浸出液が失われないように、ラップや専用のパッドを貼ります。昔は乾燥、今は湿潤療法です。

スポーツ前のストレッチと、スポーツ後のストレッチについても、ここ30年ほどの間に研究が進み、大きく変化しています。

新日本スポーツ連盟は、1970年代から80年代にかけて、大きく躍進し成長してきました。その80年代は米国から入ってきたストレッチが紹介され、日本中に普及した時代でもありました(図1)。当時はこれが最新の準備運動だったわけです。

スポーツの前にはストレッチ、ケガの防止にもストレッチ、「15秒間筋肉を伸ばしてー、イチ、ニー、サン・…」が普通だったのではありませんか。この15~20秒間筋肉を伸ばすストレッチを、静的ストレッチ(スタティックストレッチ)と言います。

ところが2000年前後、つまり21世紀に変わるころから、静的ストレッチはケガの予防にならない、垂直跳びなど一部のスポーツではかえってパフォーマンスを下げてしまうという研究報告が出されるようになりました。アスリートの間で、あるいは学校のスポーツ活動でも、スポーツ前と後のストレッチの見直しが進んでいます。

スポーツ前はダイナミック、 スポーツ後はスタティック

従来の静的ストレッチをスポーツ前に行った場合の問題点は二つです。一つはケガをしたかどうかを調べても効果があったという研究結果が出ていないことです。つまりケガの防止につながらなかった。もう一つは瞬発力などでパフォーマンスが低下したか、または変わらなかったという結果です(図2)。はっきり向上したという成果は見られなかったことです。

箱根駅伝を2連覇した青山学院大学のトレーナーは中野ジェームズ修一さんですが、中野さんは『運動前のストレッチはやめなさい』という本を書いています。ここで言うストレッチは静的ストレッチのことです。みなさん自身の体験でも、長い時間伸ばした後は今ひとつ力が入らないと感じたことがあるのではないでしょうか。では静的ストレッチに何の効果もないのかと言えば、そうではありません。疲れを回復させ、身体を柔軟にする効果は確認されています。

スポーツの前には何をしたら良いのか、まず身体を動かし体温を上げることが必要です。運動前のウォームアップに適したストレッチは、リズミカルに体を動かす有酸素運動をしながらストレッチできればそれが一番です。体を動かし体温を上げると、ケガ(傷害)の予防になります。

また、それまで休んでいた体と筋肉に「喝」を入れ、さあこれからスポーツが始まるぞと知らせてやるイメージも大切です。つまりスポーツ前は動的なストレッチ、筋肉を動かすダイナミックストレッチです。

ダイナミックストレッチの特徴は、リズミカルに体を動かす有酸素運動で、身体を温めながらストレッチすることです。またちょっと難しくて理論的になりますが、伸ばそうとする筋肉(主導筋)とは反対側の筋肉(拮抗筋)を収縮させることで、目的の筋肉(主導筋)を伸ばすストレッチです。

サッカー選手がブラジル体操をしているのを見た方も多いでしょう。このブラジル体操もダイナミックストレッチです。次ページにダイナミックストレッチの例を挙げてありますので、実際に試してみてください。

次にスポーツ後に適したストレッチでは、スポーツ後の身体を「静め」、疲労を回復することが必要です。それには皆さんよくご存じの静的ストレッチ、筋肉を伸ばすストレッチです。運動後のクールダウンやリラックスに、疲労を早く回復し、柔軟性=可動域の拡大にも効果があります。また後まで残る慢性的な障害を防ぐにも、クールダウンつまり静的なストレッチが適しています。

21世紀の新常識は、スポーツ前にはウォームアップに最適な身体を「動かす」ダイナミックストレッチ、スポーツ後は身体を「静め」て、疲労を回復し、筋肉を「伸ばす」スタティックストレッチです。

「スポーツのひろば」2016年5月号より

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