なぜ酷暑の中でオリンピック?

10月10日は何の日ですか?

「体育の日」と答えた人は、40歳以上でしょうか。1966年~1999年まで34回は体育の日だったので、その印象が強いのでしょう。でも2000年からは10月の第二日曜日が体育の日になりました(昨年まで19回)。

かつての体育の日だった10月10日は、1964年東京オリンピックの開会式を記念したものでした。1964年の東京オリンピックは、10月10日の開会式に始まり、24日の閉会式まで秋空の下で15日間開催されたのです。この時期の東京はスポーツに相応しいさわやかな天候に恵まれています。

スポーツに相応しい季節は何時かと問われれば、日本人なら5月か10月と答えるのではないでしょうか。しかし、来年の東京オリンピックは猛暑が予想される7月末から8月中旬に行われます。なぜなのでしょうか?

オリンピックの開催期間の一覧表を作ってみました(表1)。1964年東京の次の1968年メキシコシティはやはり10月でした。1988年のソウルは9月後半から10月初旬でした。まだ開催期間の縛りが緩やかだったのでしょう。1900年の第2回パリ大会は、5月から10月まで5か月間ということもありました。

IOCが7月15日~8月末日までを前提にしていた

オリンピックを招致するにあたって、IOC(国際オリンピック委員会)は開催期間を7月15日~8月末日までを前提として、立候補する都市(東京)に求めました。なぜ7月15~8月末日という期間を指定したのでしょうか。

その背景にはIOCの資金事情があるというので、ホームページを見てみました。原文は英語ですが、文章だけは見る間に日本語に変換されます。驚いたことに資金調達の73%は放映権、18%はTOPという有名企業のスポンサー料で、残り9%がその他の収入という構成です(図1)。

放映権料があまりにも多いので、間違いではないかと思い他の文献も調べてみました。『JOAオリンピック小事典2020』では、放映権料が2009~2012年までの4年間で38億5千万ドル(約80%)、TOPスポンサーが9億5千万ドル(約19%)とありました。収入の7~8割を放映権料が占めているのは間違いありません。放映権料と企業スポンサーからの「企業からの金」が9割を超えているので、IOCはこの両者に胃の腑を握られているのではないでしょうか。

放映権料が急増したのは2000年のシドニー大会以降と言われています。発言力が強いのは米国の放送局で、米国のNBCは放映権料の半分以上(北京大会で51%)を占めているようです。

<参考資料>
小川勝 「オリンピックと商業主義」 集英社新書 2012年

米国のテレビはスポーツ優先

テレビ視聴率は、日本ではドラマやバラエティーが高いようですが、米国はスポーツです。米国のテレビ視聴率のトップは、アメリカンフットボールNFLの優勝決定戦で、例年40%を超えています。

テレビで放映される「四大プロスポーツ」の期間を調べてみました(表2)。アメリカ人が一番熱狂するアメフトのレギュラーシーズンが、9月から始まり12月までです。バスケットボールのNBAが10月中旬~4月上旬まで、野球のメジャーリーグMLBのワールドシリーズが10月です。アイスホッケーも10月から始まります。9月から10月以降は4大スポーツが目白押しに並んできます。

だからテレビ局はアメフトのレギュラーシーズンが始まる前に、8月末までにオリンピックの放映は終わらせておきたいという意向なのでしょう。IOCの提起した期間7月15日~8月末までというのは、これを正面から受けたとしか思えません。つまり真夏のオリンピックは、米国の放送界の都合によるものといえるでしょう。

米国の放送界の都合で変えられたのは開催期間だけではありません。2008年の北京五輪では、水泳で「午前中に準決勝・決勝、午後に予選」と、従来とは逆転しました。選手にとっては不都合なこの逆転も、米国のゴールデンタイムに放送するためだったそうです。

「グローバル化」は「アメリカ化」?

グローバル化という言葉を聞いたことがあると思います。言葉の意味は、世界を一つにしようということですが、その実態はアメリカ中心の世界をつくること、「地球のアメリカ化」です。オリンピックの開催期間や、予選・決勝の時間をアメリカに都合の良いように変えるのは、スポーツの「グローバル化」に他なりません。米国都合のスポーツのグローバル化が「酷暑のオリンピック」の背景にあります。

IOCの言い分は、前もって開催期間を立候補都市に提示し、それを受け入れて(東京は)招致運動をしたのだから、今更何を言うのかということでしょう。開催期間の変更は、すでに首根っこを押さえられたうえなので、お願いはできても、強く主張できないというジレンマに陥っているようです。

「酷暑のオリンピック」は、クーベルタンの思想からも、オリンピズムの精神からも、「アスリートファースト」という理想からも最も遠く、最悪の姿「オリンピックの闇」を象徴しているかのようです。(ひろば編集委員・西條晃)

<参考資料>
「JOAオリンピック小事典2020 増補改訂版」 メディアパル 2019年

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