スポーツ中に倒れる人が増えている!? 運動中の突然死を防ぐには〈1〉

構成=編集部 イラスト=いわいえみ

日々元気に過ごしていた人が、スポーツをしている時に突然倒れる、そんな悲劇が毎年どこかで発生しています。世界的ベストセラー『奇蹟のランニング』を出版し、80年代のアメリカでジョギング健康法ブームの火付け役となったジム・フィックス(52歳)は、皮肉にもジョギング中に突然死に襲われました。

1986年、女子実業団バレーボールの試合で、フロー・ハイマン選手(32歳)が突然倒れ、2日後に死亡しました。この事件については、すぐに救命措置を行わなかったことに対して、海外からも多くの批判を受けました。

2002年、カナダ大使館でスカッシュをしていた高円宮殿下(47歳)が心室細動を起こして帰らぬ人となり、日本中がショックを受けました。

2011年、サッカーの松田直樹選手が練習中に倒れ、34歳の若さで急死するというニュースは、スポーツ界に大きな衝撃をもたらしました。

健康に良いとされるはずのスポーツで、なぜこのような突然死が起きてしまうのでしょうか。その原因を探るとともに、突然死を防ぐ方法について考えてみましょう。

スポーツ中の突然死はどれくらいある?

日本で、スポーツ関連の突然死の実態を示すデータは少ないですが、東京都監察医務院の検案例(90年)のうち、急死679例がどのような状況で起こったかをまとめた資料があります(図1)。一番多いのは寝ている時で、次がお風呂。スポーツはわずか11例で、全体の2%しかありません。

しかし、1日の生活のなかで睡眠時間が占める割合は多く、スポーツをする時間は限られているのが普通です。そこで、一定の生活時間に起こる急死の発生率を考えると、睡眠が0・8に対して、スポーツは4・1とずば抜けて高い値です。つまり、突然死全体ではスポーツ中の頻度は多くないが、危険率は高いということになります。

次に、どういう種目で起こるかを見てみましょう。(図2)は、04?09年に学校で起こった運動関連突然死を種目別にまとめたものです。最も多いのはランニングで、バスケットボール、野球、サッカーと球技が続いています。おそらくランニングは陸上部だけでなく、各運動部で準備運動やトレーニングとして行われる頻度が高いからでしょう。

古いデータですが、84?88年に警察に報告されたスポーツ中の突然死(645例)の内訳が(表1)です。全体ではランニングが多いですが、年代別にみると40?59歳ではゴルフ、60歳以上ではゲートボールが多いという結果が出ています。

年代によってスポーツの趣向が異なり、種目によって活動時間も違うので、ランニングを1とした「相対危険率」を算出したのが(表2)です。注目したいのは、ゴルフの相対危険率が40?59歳では0・6なのに、60歳以上は7・9と数値がはね上がっていることです。登山やゲートボールも、60歳以上の人にとっては「ランニングより危険」という結果になっています。

これは、ゴルフやゲートボールは心臓に病気を抱えている人でもできるので、それだけ事故の可能性が高くなっていると考えられます。また、テニスや水泳は、普段からある程度トレーニングをしていないと続けられないという制約があるから危険率が低いのでしょう。

「ゲートボールは体力を使わないから大丈夫…」ではなく、どんなスポーツでも事故は起こりうると考えておいたほうが良さそうです。

なぜ運動中に突然死が起こる?

スポーツ中における突然死の原因のほとんどは、心筋梗塞をはじめとする心臓病です。

(表3)を見てください。これは、東京都監察医務院の剖検データによる「スポーツ関連突然死」の原因をまとめたものです。一番多い原因は「虚血性心疾患」で、心臓に血液を送る冠状動脈で血液の流れが悪くなったり、血管が詰まったりするために、心筋が壊死して心臓の機能が停止する病気です。具体的な病名としては、狭心症や心筋梗塞などがこれに当たります。狭心症は、心筋梗塞の軽度な症状と考えればいいでしょう。

二番目に多い「急性心機能不全」は、心臓そのものには明らかな異常はないが致命的な不整脈が起きたと思われるもの。三番目が「他の心疾患(心筋炎、心筋症など)」で、突然死の原因の上位3つが心臓に関わる病気ということになります。このような心臓性突然死は、何もないところから〝突然に〟起こっているわけではありません。

スポーツ中に急死した人の心臓や血管の状態は、限界寸前の段階まで達しているのが大多数です。つまり、本人が気づかないうちに、何か潜在的な心疾患を抱えていて、そこにスポーツで体に強い負担をかけたことが引き金となって、最悪の事態に至っていると言えます。

(表4)は、最近のマラソン大会で起こった心肺停止例(49件)の状況を表わしたものです。ゴール直前・直後が多いですが、スタート直後や前半で倒れるケースも見られます。

年齢層を見ると、中高年が半数以上を占めますが、20~30代も結構多いです。また参加種目では、フルマラソンが12件、ハーフが15件、10kmが10件、その他12件で、距離が長いほど危険ということではなさそうです。「若いから(短い距離だから)大丈夫」と油断してはいけません。マラソン大会では、参加者も主催者も予期せぬことが起こりうることを念頭において実施することが大切でしょう。

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「スポーツのひろば」2012年12月号より
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