用具とパフォーマンス|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈24〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

ランニングシューズだけではなく、様々な新テクノロジーをうたった用具が発売されると何となく「使ってみたいな~」という感情が生まれます。厚底シューズが話題になった時も「履いてタイムアップできるなら使ってみようか?」と思った方も多かったと思います。

テニスの「デカラケ」や、スキーの「カービングスキー」は、今や当たり前のように使用されていますが、発売当初は様々な意見が登場しました。「打ちやすい」「回りやすい」「軽くて操作が楽」という肯定派と、「きちんとした技術が習得できない」「適当にできてしまう」「シビアな用途には使えない」という慎重派がいました。

結果的に言えば「デカラケ」も「カービングスキー」もなくなることはなく、それぞれのコンセプトの中で「入門用」「中級用」「上級用」と用途を限定して高性能化しています。

個人の出力特性に合う重さは?

投擲競技でいうと男子砲丸とハンマーは7・26㎏、円盤は2㎏、やり投げ800gですのでそれぞれの重さと動作に合わせた筋の出力特性が求められます。ところが「ペットボトル投げ」といって自分が最も遠くに投げることのできる重量を自分で調節する課題をやってみると個人個人で微妙に重さが違います。500gが最も飛距離が出る人もいれば600gの方が飛距離が出る人がいます。つまり自分の出力特性に合わせた重量があるようなのです。

やり投げの場合、投げる瞬間にやりが撓みその撓みが戻る反発係数によって飛距離が決まるので「弾性体としてのやり」を考慮しなくてはいけません。自分の投げ動作の特性に対して「柔らか過ぎる」ものも「かた過ぎる」ものもこの撓みを上手く利用することができず飛距離が出ないのです。

ゆえに「革新的なテクノロジー」をうたった用具を使用したからといって自分の出力特性とのミスマッチが生ずることもあり、動きと出力特性を変えるトレーニングのプロセスが必要となります。

1998年の長野五輪で、新たに登場した踵部分の離れる「スラップスケート」への対応が遅れ、前シーズン連戦連勝・無敵であった堀井学選手の苦闘はこの典型例だったのです。スラップスケート登場以前は銀メダリスト・ウォザースプーン選手は「普通の選手」であり、スタートダッシュを得意とする清水宏保選手は登場前後も「相変わらずトップ選手」の金メダリストであったことも象徴的な出来事でした。

「スポーツのひろば」2020年11月号より

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