

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
軽量化が有利と考えられている女子の競技種目は、陸上競技長距離や新体操(細く手足の長い方が良い?)、フィギュアスケート(跳躍の高さや回転数が評価)などがあげられます。
しかし、競技力としての筋出力の高さや後半でのスピード持久力も求められますので、単純に軽量であればよいというわけではありません。アスリートの軽量化は筋量を維持しての体脂肪の減少であり、増量では体脂肪を増やさずに筋肉量を増やすことが求められます。

ただ女子アスリートの場合、体脂肪率が12%以下となると生理不順や骨密度低下を招き、FAT(女子選手の三主徴)の弊害も指摘されていますので注意が必要です。
FATは、強迫観念ともいえる「深刻な摂食障害」を誘発し、無月経や骨密度低下を招き、選手生命を奪うほどの深刻な事態を招きます。
この「痩身願望」は一般女性であっても存在します。実は20年前のマネキン人形では、現在市販されているGパンや上着は入らないそうで、服装業界を含め「痩身志向」を推進しているようです。身体運動を行わない一般女性の場合でも、1日1950キロカロリーのエネルギー摂取が必要なのですが、1500キロカロリー未満の女性が増えていることも指摘されています。
単純に不足分の450キロカロリーの体内組織からの補填を計算すれば、脂肪は50g、糖質とタンパク質は112gに相当します。
しかし脂肪の分解には手間がかかる(ミトコンドリア内のβ酸化プロセスが必要)ので優先的に糖質(グリコーゲン)を分解しますが、グリコーゲンは脳機能を維持するのに絶対に必要なものなので脳機能の低下を招きます。またタンパク質では筋や内臓組織、免疫細胞などを分解しますのでまさに「活動レベル」や「生命機能」の低下などきわめて不健康な状態を招いてしまいます。
また最近話題の「低糖質ダイエット」では、摂取食品のタンパク質・脂肪・炭水化物の割合(PFCバランスといい20:15:65の和食メニューが健康的とされる)を「相対的ジャンクフード化(脂質とたんぱく質摂取量が相対的に増える)」することとなり、栄養バランスも崩壊します。サプリメント摂取はあくまでも「栄養補助食品」ですのでトータルな食事内容を改善してくれるわけではありません。
やはり「運動―栄養―休養」の枠組みの中で、必要な食事内容と三食摂取のタイミングを計っていくことが重要なのだと思います。
〈参考〉NHK「クローズアップ現代~ニッポンの女性はやせすぎ!?」2015年放映
「スポーツのひろば」2025年6月号より