鉄は熱いうちに打たない!?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈9〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

子どものスポーツを考えるうえで「発達段階を推定すること」が重要です。子どもの発達段階には10歳までの「神経系」、11~14歳までの「持久系」、15歳以降の「パワー系」という発達順序があり、個人個人の発達段階には±3年の違いがあると言われています。誕生日からの暦年齢と生物学的年齢に±3年のズレがあるとすれば、中学1年生では、発達段階が小学5年生から中学3年生に相当する子どもたちがいることになります。

男子は小学5年生頃からある程度の筋力もついてきてスポーツらしい動作の獲得が可能になります。身長の急成長も始まり、成長軟骨(子どもの骨の端にある軟骨)が伸びて骨が長くなります。しかし、筋の伸長が追いつかないため、関節可動域の低下を招きます。また、成長軟骨の近くに筋が付着しているので、いわゆる「成長痛」も起こりやすくなります。筋の性質は持久的なもののため反復練習には適しているのですが、骨格と筋の密接な構造上、スポーツ傷害も発症しやすい大変複雑な段階にあります。

スピード&パワー系の発達は、身長の急成長が過ぎた高校生頃から始まりますが、これはたいへん合理的なことです。もし身長の急成長期にスピード&パワー系が発達したら、自分で自分の身体を壊してしまうからです。

発達段階にふさわしいトレーニングとは?

「臨界期」という概念があります。これは特定の機能が発達するときにそれに必要な環境を準備しないと、後からでは「手遅れ」になるという考え方です。小学4年生までは「動きづくり」、小学校高学年から中学校期はその動きを繰り返す「持久性づくり」、そして高校生からは本格的な「スピード&パワーづくり」というトレーニングカリキュラムが必要です。特に身長の急成長期を把握することは、スポーツ障害の予防に重要な意義を持ちます。

「鉄は熱いうちに打て」と例えられますが、打ち方の工夫も必要で、熱いうちに大きな衝撃で打つとスポーツ障害を発症するリスクも高いのです。また、子どもは「楽しい取り組み」でないと「糖動員性」という活動エネルギーを生み出す機能が活性化しません。大人は苦しい課題でも意義を理解してエネルギーを生産できるのですが、子どもは楽しくないと活動エネルギー不足になってしまいます。

(「スポーツのひろば」2019年4月号より)

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