山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
「体調管理や健康維持のために運動したいのですが、どのくらいやれば良いのですか?」という質問をよく受けます。
実は個々人の遺伝子検査をしないと「各自の適切な運動の内容と時間」は決定できないことが知られています。
グラスゴー大学のギル先生は、食事由来の血中〝カイロミクロン(脂質)〟 が前日の90分のウォーキングで同じ食事内容でも朝食4時間後に減少していることを指摘しています。
バーミンガム大学のティモンズ先生は、トレーニングにより有酸素的能力が劇的に改善される人が15%であるのに対して、ほとんど効果の出ない人が20%いることを指摘しています(NHK「フィットネスの最新科学~運動は本当に効果的?~」2012年放映)。そして20秒間全力ペダリング+10秒休憩を3セット、週4回実施するという高強度短時間運動(HIT)が、糖代謝改善(糖尿病への対応)と有酸素能力向上に効果的であることを指摘しています。
日本では立命館大学の田畑先生が、20秒間高強度運動+10秒休憩を6~8セット(3~4分間)を週2回実施することを推奨しています。
ただどちらのトレーニングも20秒間とはいえ高強度運動なので「ちょこっと!」できるわけではありません。
米・メイヨークリニックのレヴァイン先生は「活動性熱生産」によるカロリー消費に「運動性(EAT)」と「非運動性(NEAT)」の2種類があり、同じ体格の人でも2000kcalの差が生ずることを指摘します。
つまり、座りっぱなしの事務員と常に立ち、振舞っている店員とでは、NEATの値が異なるということです。そして、仕事のNEATと余暇のNEATが影響していることを示唆しています。(ちなみに1時間のランニングは500kcal程度)。
〈参考〉田畑泉『世界標準の科学的トレーニング『講談社、2022年/J・レヴァイン『GET UP!~座りっぱなしが死を招く』角川書店、2016年
「スポーツのひろば」2024年12月号より