(プロフィール)
山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
最近の子どもは、過度な競争環境下での運動不足と精神的ストレスの増加などの健康上の問題を抱えています。かつては、学校帰りに河原やお寺、神社などの「秘密基地」で「みちくさ」ができたのですが、今はスクールバス導入や不審者への対応などから、運動遊びができる環境が少なくなってしまいました。
そこで、スイミングやサッカーなどのスクール通いが盛んになり、トップクラスの選手を目指す「早期教育」などが注目されています。
ここで問題になるのが「勝利至上主義」に代表される「スポーツの歪み」の弊害です。勝つことをすべての前提に、子どもにも指導者にも「管理主義」が横行し、フェアプレイやリスペクトといったスポーツ本来の重要な価値観が置き去りにされるのです。
テニスのジュニア大会のセルフジャッジのシーンで、コーチが「相手のオンラインショット(最高のショット)は『アウト』とジャッジしろ!」という信じがたい指示を出した例があると聞きます。子どもの心とからだにとっての大きな問題は、オーバートレーニングによりスポーツ障害を招くことです。スポーツで輝いていた子どもたちが、障害を発症して大好きなスポーツができなくなる…これはとても重大な「子どもの権利侵害」です。
スポーツトレーニングは一種のストレスですので、一定のレベルを超えると障害を発症します。
トレーニング計画と発達段階の推定が重要
右下の図はスポーツ障害の発症をモデル化したもので、例えば練習の「強度」「時間」「頻度(週に何回練習するか)」の三要素を考慮すれば、スポーツ障害は予防できるのです。つまり「トレーニング計画の妥当性」こそが最も重要です。指導者の根拠のない経験や勘、その日の気分などに依存していては効果的なトレーニングはできません。また、練習前後の身体のケアもとても重要ですが、練習を終えてすぐ塾に行ったりして整理運動(準備運動も)ができなかったり、練習後の栄養摂取が不適切であることも問題です。
また、子どもの発達段階には10歳までの「神経系」、11~14歳までの「持久系」そして15歳以降の「パワー系」といった発達順序があり、かつ個人個人の発達段階に最大±3年の違いがあることも指摘されています。つまり「発達段階の推定」が非常に重要になってくるのです。
(「スポーツのひろば」2019年3月号より)