「動き(スキル)」を先に獲得すべし|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈48〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

トレーニングはその種目やポジションの「特異性」に合わせて実施されます。例えば、250㎞の自転車ロードレースと42・195㎞のフルマラソンとではともに高い持久力が求められますが、持久的能力の発揮の仕方が異なります(ペダリングとランニング)。

自転車のペダリングでは、「アンクリング」というテクニック(真下ではなくやや前方に踏み込む)が求められますので、サドルの前後位置も調整が必要です。またレース中の回転数が90~110回転/分と高いので、一般的に運動トレーニングで使用されるエクササイズバイク(60回転/分)ではレースの状況と合致しません。

一方ランニングでは、かかとから接地する「ヒールストライク型」は推進力にブレーキ要因が発生します。そこで、かかととつま先の中間部分で地面に着地する「フラット型」や、前足部(つま先側)で地面に着地する「フォアフット型」が有利になります。そのため、「ストライドをやや狭くしてピッチを上げる戦略」をとることでランニングのエネルギー効率が改善されます。最近話題の「厚底シューズ」は、この接地方法のエネルギー効率が高くなることが指摘されています。

競技に合った効率的な動きを知る

つまり、異なるスポーツや競技には、それぞれ独自の動作や要素があるため、トレーニングのプロセスでは「効率的な動き(スキル)の獲得」が先行します。効率の悪い動きのままではトレーニング効果は限定的になってしまいます。そのため、それぞれの競技に特化したトレーニングが必要になるのです。

状況に応じて適切な動きに切り替える

また、レースの進捗に伴いエネルギー供給系が「変容(筋疲労の進行だけではなくレース戦略変更も含む)」してきます。この点で変容したエネルギー供給系の「モード(ハイパワーモードとミドルパワーモードの比率など)」に応じて運動スキルを変容させて破綻をきたさない戦略が必要になってきます。

これがいわゆる「適応制御」としての「巧みさ」です。「いろいろな動きができること」ではなく「状況に応じて適切な動きに切り替え」「破綻をきたさず最適な運動経過を継続する」ことが重要なのです。

〈参考〉丹治史弥他「カーボンファイバープレート内蔵厚底ランニングシューズによるランニングエコノミーへの影響」ランニング学研究 Vol.32 2023年

「スポーツのひろば」2023年10月号より

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