「出来合いのもの」で対応する…転移?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈50〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

スポーツ動作の「模倣」ではなく「転移」と指摘される現象があります。そもそも私たちの身体は骨や関節や筋肉はほぼ同じですので、プロポーションやパワーの違いはあるものの、ほぼ似たように動きます。

例えばテニスをずっとやっていた人が初めてバドミントンをやってみると、最初はテニスの「サービス」や「スマッシュ」の動作で対応します(私はそうでした)。バドミントンのラケットはテニスに比べて軽い(300gと80g)ので操作はしやすいのですが「何か変?」です。そのうち「動作の変容(適応?)」が起こりバドミントンのラケットやシャトルの特性に合わせてなんとか打てるようになります。

現在のラケットは前後左右の「しなり」だけではなく「ねじれ」にも対応していますので「バックハンドのハイクリア」で瞬間的にラケットヘッドを「ひねる」というテクニックも存在します。これはテニスラケットではできないテクニックなので「新たに習得」する必要があります。

私が授業でバドミントン部員と試合をしていたら「先生のコース、なんか変です!」と言われました。どうやらテニスの配球のセンスでバドミントンをやっていたようなのです。そういえば卓球選手(ペンホルダーの速攻タイプやシェイクハンドのカットマン)やソフトテニス選手のバドミントンも「なんか変!」でした。

大脳の神経細胞(ニューロン)が160億個ほどであるのに対して、小脳は690億個あるとされ、多様な「動作補正」を支えています。そして「これだ!」という補正を大脳基底核が視床を介してONにするメカニズムです。さらにその補正が「予測通りうまくいく(補修予測誤差ゼロ)」と「中脳」から報酬に関わるドーパミンが大脳基底核線条体に放出され「強化学習」が進んでいくようです。

当初は「出来合いのパーツ」を使って処理していくうちに「バージョンアップ」が進んでいくようです。では、もともとの「ピュアなスイング」はどうなってしまったのでしょうか。大学院の授業で、野球の投手とこの話をしていたら「スライダーを覚えたら、今までのピュアなカーブが投げられなくなりました!」とのコメントがありました。

「スポーツのひろば」2024年6月号より

タイトルとURLをコピーしました