動きをつくりだすシステム?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈23〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

私たちの身体は、骨と骨とが関節を介して連結し、関節をまたいだ筋が収縮して「動き」が生まれます。多くの筋は「多関節性」といって複数の関節を介しています。例えば、肉離れを良く起こすハムストリングス(大腿裏側)は、上部の股関節には「伸展」に下部の膝関節には「屈曲」に関与します。大腿前面の大腿四頭筋は、股関節には「屈曲」に膝関節には「伸展」に関与します。

ですから「膝を曲げよう」という時にどちらの筋を「主役」にするのか選択する必要が生まれます。立位では大腿四頭筋を「弛緩」させますし、伏臥位(うつ伏せ)ではハムストリングスを「収縮」させます。垂直跳では膝関節の屈曲―伸展に連動してハムストリングスが股関節を伸展させます。

運動には複数のシステムが関わっている

私たちは、そんな面倒くさい手順を考えずに「とにかく高く跳ぼう」という意識で運動を実施しています。これは私たちの「動きをつくりだすシステム」からの命令が、「関節トルク」といって〝ギュン〟とか〝ギューン〟とか〝ギュイーン〟という関節を動かす「力と速度」の性質を持っているからです(国際電気通信基礎技術研究所〔ATR〕川人光男先生)。「膝を0・3~0・4秒間で105度から180度に伸展して、そこから0・05秒遅れて股関節を45度から…」などとやってはいないのです。

この際、〝ギュン〟と動かすときと〝ギュイーン〟と動かすときでは筋の速筋線維と遅筋線維の活動様式が異なりますので、私たちの「動きをつくりだすシステム」は大変柔軟に命令を出して対応しています。まして全身の数多くの関節と筋を目的に合わせて協調させて動かすためには膨大な運動司令が必要となり、それを可能とするために日々練習を繰り返しているのです。

これは脳の意思決定にかかわる前頭連合野、感覚野や運動野、小脳や大脳基底核といった複数のシステムを統合する大変巧みなシステムを私たちが持っているからです。

「スポーツのひろば」2020年10月号より

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