お酒を飲んだ翌朝の運動は…?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈47〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

定期的に運動を行っていても「飲酒習慣」のある方は多いと思います(私もそうですが…)。そこで話題となるのが飲酒と運動の関係で「適量」とは何かということです。

飲酒によるアルコール摂取はヒトに様々な反応をもたらします。最近話題の「ノンアルコール飲料」は大変良くできていて味も香りも「本物」並みなので、過去の経験と重ね合わせて「リラックス感」や「親近感」を生み出します(顔が赤くなったり心拍数が上がったりする人もいるようです)。

アルコールも薬と同じで「消化」の必要がないので胃で20%程がすぐに吸収され20~30分ほどで「酔い」が始まります。そして人体最大の化学工場である肝臓に送られ、90%程は「アルコール脱水素酵素(ADH)」によってアセトアルデヒドに分解され、残る10%は汗や尿や呼気から体外に排出されます。

このアセトアルデヒドは毒性を持っており、顔が赤くなったり動悸や吐き気、頭痛などの原因となりますので、肝臓での次の解毒作用として「アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)」によって酢酸(お酢)に分解されます。アセトアルデヒドが分解しきれずに翌朝も体内に残っているのがいわゆる「二日酔い」状態です。

このアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが強い人がいわゆる「酒豪」で、働きが弱い人がお酒に弱い人になります。人類の進化のプロセス(ヒトとチンパンジーなどの共通のご先祖だったころ)で、腐った果実(発酵してアルコールを含む)も食べる生存戦略で生き残ってきたようなのですが、アジアでは水田農耕が起こった南部の人たちはお酒に弱い(中国内陸部の人は強い)とされています。これは、アセトアルデヒドを分解せずに残して体内で感染する水辺の細菌への対抗措置として獲得されてきたのではないかとのユニークな仮説があります(NHK、食の起源:酒、2021年放映)。

個人差もありますが、ビール1缶(350ml)のアルコール分解に2~3時間かかると言われていますので、大量の飲酒の翌朝はまだアセトアルデヒドが残っている「二日酔い状態」です。私の実験では、「1次会」で終了した場合よりも「2次会」まで行ってしまうと、ランニング前の安静時心拍数が高く、ランニング開始からいつもより10拍ほど心拍数が高いのですが、さらに1時間走後の心拍数が60分以上たってもなかなか低下しないというデータがあります(山崎健、飲酒翌日のランニング、1994年ランニング学会大会)。ランナーの方はいつもご自分の心拍数をモニターしていると思いますが、ランニング前の心拍数が高いときは「ご用心!」。

「スポーツのひろば」2023年9月号より

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