運動で免疫力アップ??|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈21〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

コロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大での行動自粛が推奨される中で、散歩やジョギングなどは厳しく制限されていません(自宅から1㎞以内の範囲に限定されている例もありますが)。

根拠の一つとされるのが「運動は免疫力を高めるから!」ということですが、本当なのでしょうか?

運動と免疫力の関係には多くの研究報告があり、一般的には「適度な運動は良いが過度な運動は免疫力を低下させる」と認識されています。ではそのメカニズムは何か?というとよくわからないことが多いのです。

免疫システムとは?

免疫のシステムは、細菌やウイルスなどの生体侵入に対して、まずマクロファージという細胞が攻撃して炎症反応を起こします。そしてその間に相手方の遺伝子情報を獲得して、T細胞という免疫の中枢システム(HIV感染で破壊され免疫不全を引き起こすことで有名)に送ります。もしその相手がかつて感染したことがあるものならば、それに応じて獲得された抗体などを生産し、相手を攻撃することで事なきを得ます。新型ウイルスが猛威を振るうのは、この免疫システムが過去のデータをもっていないためです。

さらに最近の研究では、この免疫システムが過剰に反応し病原体以外の通常の細胞を攻撃することと、その過剰反応を阻止する「Tレグ細胞(大阪大学・坂口先生が研究)」の存在も指摘されています。このTレグシステムがないと免疫システムは「いつまでも」攻撃をやめないため様々な不都合(自己免疫性疾患など)を引き起こすことも指摘されています。今回のコロナウイルスによる肺炎でも、この過剰攻撃(サイトカインストーム)の可能性が指摘されています。

運動が免疫力を高める可能性の一つとしては、身体運動による「ストレス低減効果」です。過度のストレス反応(ストレスホルモンのコルチゾールなどの過剰分泌)が免疫システムを低下させることはよく知られており、適度な身体運動がストレス反応を低減させるので、「結果として免疫力が維持される」可能性があるのです。

「スポーツのひろば」2020年7-8月号より

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