HIT(高強度短時間運動)って何ですか?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈33〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

最近話題のHIT(高強度短時間インターバルトレーニング)は、立命館大学の田畑泉先生が提唱して有名になった「タバタ・メソッド」です(田畑先生によると本来は嬬恋高校の入澤孝一先生がスピードスケートのトレーニングとして考案されたものでその後の様々な試行錯誤の中で生まれてきたのだそうです)。

基本は「20秒間の全力運動」+「10秒休息」を1セットで7~8セット反復(4分)するもので、わずか数分の実施で大きなトレーニング効果が得られることで注目されてきました。田畑先生によると「20秒間の全力運動」は最大の持久的能力170%相当(連続実施では50秒が限界)で、疲労困憊まで反復することにより最大酸素摂取量(有酸素系)に対しての有効なトレーニングであるとともに、7~8セット目では最大酸素借(無酸素系)が生じていることから両者に対してのトレーニング効果が認められるとの結論です。

ですからこのトレーニング法は、有酸素系と無酸素系の両者が混在する1~2分間で終了するスピードスケートや水泳などの種目で有効なトレーニングであるとしています。

この方法は短時間で効果が得られることから、運動不足が問題となる一般人(生活習慣病や話題の基礎疾患の回避に有効)や宇宙飛行士(重力がないため急激に筋委縮が生ずる)へのトレーニングとしても活用されています。

大変魅力的なトレーニング法なのですが、実は「20秒間の全力運動」をどうやって実施するのかは意外と難しいのです。

例えば、水泳選手が自転車エルゴメーターを用いても「運動様式」が異なるので効果は限定的かもしれませんし、全力ペダリングが行える自転車エルゴメーターは数十万円(数万円のエルゴメーターでは全力負荷が設定できない)の価格です。

さらに、様々な運動様式での最大酸素摂取量の170%を設定するのは難しく、例えばバーピーステップやその場腿上げ(ステッピング)ではどの位になるのかは不明確です。逆説的に8セットで疲労困憊(ヘロヘロ!)に至るようにトライ&エラーを繰り返して探ってゆくことが必要かもしれませんが、疲労感が出るので「手抜き」をしていては効果は限定的です。

「スポーツのひろば」2022年3月号より

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