山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
ここ3年ほど共同で、子どものランニング(1000~2000m)中の心拍数を検討しています。一昨年の宮城と東京と兵庫の小学6年生の調査では、心拍数が200拍/分を超える子どももいてビックリしました。時計型心拍計なので測定誤差かとも思ったのですが140拍/分程度の子どももいるのでデータは正確なようです。
面白いのはランニング速度(ラップタイム)と心拍数の関係が大人のように相関関係がない点です。大人であれば、ランニング速度に応じて心拍数が上昇します。ところが、ゆっくり走る子ども(100m40秒以上)と、速く走る子どもでは、心拍数に統計的な差はありません(ゆっくる走る子どものほうが、多少心拍数が少ないように見えますが)。どうやら子どもの負荷-心拍応答特性は大人とは異なっているようです。
昨年の岐阜の中学生の調査では、やはり心拍数が200拍/分を超える子どもが多くいましたが、一方陸上部で長距離トレーニングを行っている子どもでは170~180拍/分でそれなりに速いタイムで走っているのです。
ランニングを継続するとエネルギーを作り出したり乳酸を処理したりするために「酸素」が必要となり「心拍出量(心臓から全身に送り出される血液の量)」が増大します。「心拍出量=1回拍出量×心拍数」という関係が成立しますので、1回拍出量と心拍数はともに上昇し始め、1回拍出量が頭打ち(一定)になって心拍数は上昇し続けるというメカニズムでランニングを継続します。
ところが2時間走など長期間の運動を継続していると、後半のペースは変わらないのに心拍数がじわじわと上昇し始めます。これはカルディオ・ヴァスキュラー・ドリフト(心血管変動)と呼ばれる現象で、発汗により血液濃度が高くなる(粘性抵抗が増える)と、1回拍出量を減らして心拍数を上昇させて心臓への負担を減らしているようなのです。
つまり私たちの身体は大変良くできていて、心拍数だけではなく1回拍出量とも連動して運動を継続しているようです。また心拍数は自律神経系の支配も受けていますので「酸素需要量」だけではなく「緊張状態」や「準備状態」も反映します。スタート前の心拍数の高まり(ドキドキ状態)はこのメカニズムを反映しているのです。
運動経験の少ない子ども(多分大人も)の場合には、この「心拍出量=1回拍出×心拍数」という関係が上手く成立せず、心拍数のみの上昇や1回拍出量の上昇が上手くいかない(いわゆる 〝空ぶかし状態〟 )のではないかと考えていますが、まだ結論は出ていません。
「スポーツのひろば」2023年3月号より