「体幹トレーニング」は「動きとの連動」が前提?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈30〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

ここ数年「体幹(コア)トレーニング」の重要性が指摘され、コアトレーニングやスタビライゼーションやバランスボールやストレッチポールを用いたトレーニングが紹介されています。

ところで、何故「上肢」や「下肢」ではなく「体幹トレーニング」なのでしょうか?

私たちの身体は骨と骨が関節を介して繋がって、複数の関節をまたいだ筋肉が連動して収縮し、必要な「動き」を生みだします。そして全身の関節の「動きの自由度」が大変高くなっていますので、ある程度のまとまりを持った「セグメント(上肢とか上肢帯、体幹+骨盤や下肢など)構造」を必要としています。

このセグメントは骨や筋肉の形状や重量によって「動かない人体」での「重心」というものが計算されます。ところが現実に運動を行うと姿勢が変わりますので「合成重心」として計算される重心位置が刻々と変動します。疾走動作のような比較的単純と思われる運動でも、動作や姿勢によってこの重心位置が変動しますので、キックで得た力を身体の推進力に変換するため、下肢の状態や骨盤の位置、または体幹の姿勢などの「位置調節」をして効率的に疾走速度に変換する必要があります。

この時に重心はお臍の下あたりにあるとされ、キック力を受け取る重心が不安定だと「ロス」が生ずると考えられ、「体幹」を鍛えて重心がフラフラしないためのロジックで「体幹トレーニング」が必要ということになるようです。

ところが、合成重心は刻々と変動するので「ガチっと固めて」いては対応できないという矛盾が生じます。つまり体幹の安定性は「動的安定性」なのです。バーベルなどのフリーウェイトでの筋力トレーニングでは、「RM」という何回連続して挙上できる重量かが重要な指標となります。ところが1RM(1回しか上げられない最大重量)では「全力」が求められるのですが、スポーツの動作としての「全速」にはなりがたいのです。

身体の構造上、最大筋力を発揮すると付随して拮抗する筋や協働する筋の活動も誘発しますので、関節周りでは余分な筋緊張が生じて「全速」を阻害します。ですからパワーアップのためのトレーニングでは3RMとか10RMが用いられます。つまり「全力」≠「全速」なのです。また発揮筋力と収縮速度の関係からも最大筋力の3分の1で「最大パワー」を得られることも知られています。

ですから「体幹トレーニング」では、様々な条件下で自分の求める動きとの連動を図るエクササイズを工夫する必要があります。

「スポーツのひろば」2021年11月号より

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