ベテラン選手活躍の背景は?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈11〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

最近様々な競技でベテラン選手の活躍が話題となります。また、トップクラスの選手だけではなく、マスターズ競技などでも日本記録や世界記録が更新され続けています。

一番の要因は「競技を続けられる環境」が整ったことだと思います。かつては、トップアスリートが高校や大学を卒業すると、仕事との両立がなかなかできず、一部の選手を除いて「引退が当然」という雰囲気でした。また、試合のできる条件も整っていませんでした(この点でスポーツ連盟のスポーツ祭典は先進的でした)。また、競技を続けている選手が少なかったので、トレーニングやコーチングのノウハウも蓄積されていませんでした。

年齢を重ねると身体機能はどのくらい下がる?

もう一つの要因は、スポーツ医科学やトレーニング科学の進歩とその適用範囲の拡大があります。これはスポーツを実施する年齢層の拡大にも対応したものです。年齢を重ねれば「機能低下」は免れません。しかし、どの程度低下するのかは実はよくわかっていなかったのです(競技生活を長く続ける選手が少なかったのでデータがなかった)。身体的コンディションがある程度維持できていれば、ベテラン選手は経験が豊富ですので当然有利になります。

競技を長く続けるには経済的負担も

また、ベテランのトップアスリートは、監督・コーチやゲームアナリスト、トレーナーや管理栄養士といった「スタッフ集団」を組織しています。当然財政的裏付けがなくては集団を維持できません。国立スポーツ科学センター(JISS)やナショナルトレーニングセンター(NTC)では、これらを競技団体と連携して支援していますが、一般のベテランスポーツマンでは支援を受けることができません。

それでも、ある程度の経済的負担はありますが、医師やトレーナー、トレーニング施設の個人的利用ができるようになったこと(それなりのノウハウも蓄積されている)はかつては考えられなかったことです。

その一方で、ベテランになってもスポーツを実施できる人とそうでない人との「格差」の存在も深刻な問題です。「貧困」には、経済的・時間的・社会的・文化的の4つの「貧困」があることも指摘されています。本来この問題の解決こそが最も重要なことなのだとも思います。

(「スポーツのひろば」2019年6月号より)

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