「戦術的ピリオダイゼイション」って何ですか?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈54〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

 サッカーの関連サイトで、最新の理論としての「戦術的ピリオダイゼイション」が話題となっています。ピリオダイゼイションとは、試合当日に最も良いパフォーマンスできるよう準備期間を区分けし、効率良いトレーニング計画を立てることです。サッカーコーチの植田文也先生は「戦術的ピリオダイゼイション」の構成要因について「自己組織化」「カオス」「フラクタル」「バリアビリティ」を指摘します。

 「自己組織」とは、ボールゲームでのプレーヤー集団がゲーム展開に応じて個々人ではなく集団としての適切な戦術や戦略を選択・実行することを指すようです。「カオス」はオフェンスやディフェンスが「リセット」され、「フラクタル」は一定の戦術に向かって徐々にプレーが集約されていく(スローテンポから始まりテンポを徐々に上げてゆく)状態のようです。例えば、「ロングパス」→「ミドルパス」→「ショートパス」→「ワンツーリターン」→「シュート」とテンポを上げてゆくことを指し、上手くいかなければ再度「カオス」にリセットするようです。

 「バリアビリティ」はいわば「結果の正確性」を実現するための「経過の冗長性」と解釈することができます。植田先生はロシアの著名な生理学者・ベルンシュテインの〝鍛冶屋のハンマータスク〟を引用し「繰り返しのない繰り返し」と表現しています。
 
 私の解釈ではいずれも「個人的運動」レベルでの「結果の予測」を伴った変容と考えているのですが、「対人的運動」での1対1でも、プレーを続けてゆく中でフェイントやフェイクを用いての1対0・5を経て1対0でポイントを得ることが可能となります。

 「集団的運動」であれば〝スクリーンプレー〟などに典型的な3対3から3対2・5を経て3対2(=1対0を実現)でポイントを得ることを可能とします。そのプロセスの中で「自己組織化」と「バリアビリティ」が「カオス」と「フラクタル」というゲームの様相を経て実現されているようなのです。

〈植田文也『エコロジカル・アプローチ』ソル・メディア、2023年/伊藤亜紗『体はゆく できるを科学する<テクノロジー×身体>』文藝春秋、2022年

「スポーツのひろば」2024年11月号より

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