体脂肪は「ゆっくり燃える?」|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈14〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

メタボリックシンドロームで話題となる「体脂肪」ですが、実は人類進化の歴史で重要な役割を果たしてきました。私たちのご先祖様(ホモ・エレクトス)は、270万年ほど前から脳を大型化させてきたといわれています。脳は、生存のための全エネルギー消費量の20%も使うのですが、脳を守るためのバリアがあり、糖質(他には乳酸)しか利用できないのです。

脂肪=安定したエネルギー源

その頃の食糧事情はあまり良くなく、ご先祖様は「持久狩猟」といって、30㎞も獲物を追い回して熱中症にして仕留めるという戦略をとったようなのです。サバンナをトコトコと歩いたり走ったりしながら、食べ物を求めて動きまわることとなります。ところが、全エネルギーの20%を要求する脳は、糖質を優先的に使います。そうすると、安定したエネルギー源を確保する必要があり、1gあたり9キロカロリーの熱量を持つ脂肪を蓄積して利用するようになったと考えられています。

筋肉に蓄えられる糖質(グリコーゲン)を直接利用するケースと異なり、脂肪をエネルギーに変えるためには若干複雑なメカニズムが必要で「遊離脂肪酸」というものに分解して利用します(このとき、脂肪酸がエネルギーとして燃焼される)。

ですから私たち現代人も、体脂肪を燃焼してエネルギーを作り出すメカニズムを持っているのですが、農業を始めた数千年前ころから活発な狩猟採集運動をしなくなり現代に至るまで「肥満」に悩まされることになりました。

心拍数の測れる腕時計(スポーツウォッチ)では「脂肪が○%燃えました」と表示が出ますが、ランニング速度が速いと、この比率は低下します。これは年齢や体重、ランニング速度と心拍数から計算して表示する機能を内蔵しているからです。つまり体脂肪は「燃える」のですが、ゆっくりと低強度で走り続けた方がその比率は高いようなのです。

(見出し)マラソンには果糖がおすすめ!?

 市民マラソンやウルトラマラソンでは、この「遊離脂肪酸」をいかに効率よく利用するかがポイントで、運動中は「ショ糖(砂糖など)」よりも「果糖(オレンジなど)」の摂取が遊離脂肪酸のレベルが低下しにくいことが指摘されています。逆にピュアな糖質摂取は、場合によっては「血糖―インシュリン反応」を誘発してパフォーマンスを低下させる可能性があることも知られています。

(「スポーツのひろば」2019年11月号より)

タイトルとURLをコピーしました