インターバル・トレーニングはいつ始まったの?|スポ研所長 やまけん先生のブログ!〈34〉

山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。

長距離走のための最初のトレーニングは、長時間かけて走る「ディスタンス・トレーニング」が行われていました。1936年ベルリン五輪で金メダルを取ったソン・キジョンさんもこの方法を実践していたようです。1920年頃からフィンランドの長距離王ヌルミ選手が行っていた「ファルトレック・トレーニング」は、郊外の地形を利用して下り坂で急走をし平地で緩走をするもので、チェコのザトペック選手の「インターバル・トレーニング」につながる方法で、現在も重要なトレーニング手段です。

つまり、同じペースで長時間(1時間以上)走り続ける方法とスピードを大きく変えて短時間で反復する方法とが混在しているのです。「レペティション・トレーニング」や「ペース・トレーニング」といってレースで目標とするスピードでレースの1/4程度の距離を十分な休息を挟んで繰り返す方法も実践されています。

面白いのは実際のレースでは一定の「速度×距離」で行われているのに、それを目指す現在のトレーニング方法は「速度を抑える」か「距離(時間)を抑える」かという矛盾した方法をとっていることです。

ではなぜインターバル・トレーニングのように「強度と時間を変化させる」方法が有効なのでしょうか?

根源的な問題は私たち人類の進化史にあるようで、180万年前のご先祖様「ホモ・エレクトス」は、体温調節機能を持たない羚羊類を30㎞にわたって追いかけて体温調節不全(熱中症)を引き起こして仕留めた「持久狩猟」を行っていたことがわかっています。こうした狩りの際に発汗による体温調節機能と動き続ける脚の疲労や痛みを緩和する「エンドルフィン」や「エンドカンナビノイド」という自己生産性鎮痛物質生産性も獲得したようです。

仲間と協働して走っていたわけですので、とどめを刺す時は筋出力での最高速度が必要ですがそれ以外ではコミュニケーションの取れる状況(運動強度は高くない)で走っていたものと思われます。

どうやら私たちの身体は運動強度が連続的に変化(アップ&ダウン)する方法により大きく反応するようなので、パフォーマンス改善を目指すトレーニング方法は様々な工夫が求められています。

また低強度で長時間走り続けるトレーニングは、全練習量の2/3を占める必要性が指摘されています。月600㎞を走るとすれば400㎞は「のんびり」走ります。エリートランナーが月間走行距離1500㎞…といっても1000㎞は「のんびり」走っているようなのです(ケニアのランナーの練習メニューは若干異なるようです)。

「スポーツのひろば」2022年4月号より

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