山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
筋力不足が正常な可動範囲を越えた「過伸展」を誘発して、アキレス腱や筋付着部の痛みを生ずることはよく知られています。この際「炎症」や「腫れ」にまで至らない場合は、スポーツ医学的には「安静」や「練習量の制限」などが推奨されます。
女性や高齢者のランナーで膝が痛い方では、「筋トレ」で大腿前面の四頭筋を強化すると痛みが改善する場合があります。また、テーピングなどで筋の走行方向に沿って補強をしたり、「機能タイツ」 を着用して筋力低下に伴う可動域の過伸展を制限することで症状が改善されることがあります。
「腰痛」のメカニズムは大変複雑です。TV番組でも「認知行動療法」を応用して痛みへの恐怖から可動範囲を自己規制している方への「可動域回復」をはかる取り組み(″痛みループからの解放〟)などが紹介されていました。
いわゆる「筋肉性腰痛症」は、腰椎の変形など整形外科的には異常がないレベルでの痛みであり、スポーツ愛好者を悩ませる「厄介者」です。
背筋力が落ちると猫背に
身体の構造上、背骨は骨盤の背中側1/4の位置にありますので、背筋と腹筋の筋力比は3:1となります。背筋力が相対的に低下してくると背骨が前弯していわゆる「猫背」になり、顎が前方に出てバランスを取ろうとします。すると背筋に対する負担はさらに増大して腰椎下部の痛みが生じます( ″ギックリ腰〟も同じメカニズムです)。
そこで「姿勢改善」が重要な課題となります。モデルさんのように背骨が直立して颯爽と歩行していれば腰部に対する負担は軽減されます。かつてTV番組の中で、埼玉県立大学の藤縄理先生が、「猫背」が腰痛や肩こり、頸の痛みを誘発することを指摘していました(「スーパーモデルのウォーキング特集」)。
「ひざ痛」や「腰痛」は運動に関わって発症しますが、実は「悪い姿勢」も大きなインパクトを持っているのです。「加齢性筋萎縮症(サルコペニア)」は筋力低下による姿勢と歩行機能の低下を招きますが、「ひざ痛」「腰痛」のリスクも同様に増大させているようです。
(「スポーツのひろば」2020年5月号より)