赤い白球|スポーツ本Review

赤い白球
神家正成(著) 双葉社 2019年
858円(税込)472ページ

いま一度平和について考える

この作品が発表された際のタイトルは「白球と特攻」に象徴されるように、アジア・太平洋戦争末期、敗戦濃厚な日本の軍部が採用した悪名高い決して生きて帰れないという特別攻撃作戦=特攻にまつわる小説です。白いはずの白球なのになぜに赤いのか?この謎は小説の最後の最後で明かされます。

舞台は1910年、日本が植民地化した朝鮮・平壌(今の北朝鮮)。登場人物は瓜二つの顔を持つ広島県出身の日本人中学生「吉永龍弘」と朝鮮生まれの朝鮮人「朴龍雅(パクヨンア)」。二人が通う平壌第1中学校で野球部員として鉄壁の二遊間コンビを組み、全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)に朝鮮代表としての出場を目指していた。一つの白球をめぐってストーリーは戦争に突き進んでいく大きな流れとともに展開していきます。

二人は朝鮮代表を勝ち取り甲子園にも出場することが出来ましたが、時代は次第に戦争の泥沼となり二人とも軍人を目指すことになります。奇しくも二人の共通の夢は飛行機乗り=戦闘機乗りになること。朴は抜群の操縦能力に恵まれビルマ(今のミャンマー)で撃墜王の名をほしいままの活躍を見せるが、吉永は操縦士としての能力が課題に。

そして吉永は士官として図らずも「特攻」を命令する立場となってしまう。軍人となってからの二人はなかなか会える機会がなかったものの、運命の悪戯か?戦局が厳しくなったマニラで遭遇。野球をこよなく愛する登場人物たちが特攻や無謀な戦争の中で死んでいかけねばならない理不尽さを読み進めるにつれて行間からにじみ出てきます

好きな野球をやりたくてもできないという状況、ましてや祖国がなくなった状況の中で自分のアイデンティをどこに求めるか?というテーマには「スポーツは平和とともに!」を掲げて活動している私たちの運動とも深く共感するものがあります。是非一読をお勧めします。

「スポーツのひろば」2024年10月号より

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