下手には下手なりの戦い方がある!?
この本で取り上げられている野球部の正式名称は、学校法人・開成高等学校硬式野球部。
とにかく弱い。
以前は出ると負けのいわゆる「負け癖」にどっぷりつかっていたチームだったが、ある年の東京都予選会で、あれよあれよという間に勝ち進み、「これはひょっとしたら甲子園も夢ではない」という勝ちっぷり。この快進撃に興味を持った著者が野球部の練習に密着取材して書き上げた一冊。
この高校は毎年東大・京大をはじめとした有名大学に卒業生を送り込んでいる、言わずと知れた名門進学校。さらに、練習は週に1回、1時間という少なさ。グラウンドも野球場とは言えない狭さ。練習内容も一般にいう甲子園を目指している野球部の練習とは程遠い。
おまけに、とにかく下手なのである。下手さ加減も並み以上。バットを振っても球に当たらない。ゴロが来てもトンネルする。フライが来てもバンザイする始末。加えて、選手も監督も下手さを自覚している。頭の良さが災いしているのか?
著者も最初は、どうしてこのような、弱くて、下手なチームが甲子園に出場できる一歩手前までいったチームなのか理解できなかったが、練習や試合を見学したり、選手・監督にインタビューしているうちに、とにかく野球を楽しんでいることに気がついた。
ともすれば今の高校野球は、ヒットが出れば判で押したようにバント。選手はいちいちベンチからだされる監督のサインを気にしている。そこには勝利至上主義・管理野球が支配しており、のびのびとした雰囲気は感じられない。
それに比べて開成高校の野球は一切バントはしない。とにかく1番から9番までぶんぶん振り回す。大雑把な野球。勝つ時も負ける時も大差が付く。それでも選手は野球をやめようとはしない。ある試合では甲子園常連校との対決で1対0の試合も…。
スポーツは自由な雰囲気の中で行うのが基本ということを教えられた一冊。読後感は「とにかく面白い!」。一読を勧めたい。