トレーニングのリアリティを探る

新スポ連 スポーツ科学研究所「第16回オンラインシンポジウム」(2023.5.27)より
山崎 健(新潟大学名誉教授)

問題提起 パフォーマンスとトレーニングの構造を探る

スポーツパフォーマンスを決めるもの

日本の運動生理学の権威である猪飼道夫先生は、スポーツパフォーマンスのモデルとして「p=C∫(E)M」という式を提示しました。スポーツパフォーマンス(p)は、動作系(C)とエネルギー供給系(∫(E))に意欲(M)が関わり、決定されるとされています。まさに「心技体」の一体化を示していますが、その実体は明確ではありません。

私は、パフォーマンスのマトリクスモデル(下表を参照)を示し、スキル系が、3種類のエネルギー生産システムのモードに対応して、適応制御する可能性を指摘しました。

これは、運動経過の進捗に伴うエネルギー生産システムの「モード変容(疲労現象の発現のみにとどまらない)」に応じて、破綻をきたさないために、動作系を変容させる可能性を示唆しています。

例えば、酸素を使わないでエネルギーを作りだすハイパワー系(ATP-PCr系)やミドルパワー系(解糖系)のシステムは、瞬間的に大きな力を出すことができるけれど、40秒ぐらいしか持ちません。一方、ローパワー系のシステム(有酸素系)は、スピードやパワーはないけれど長時間の運動を続けることができます。

そこで「短距離走=ハイパワー系」「長距離走=ローパワー系」と考えられそうですが、実はそうではありません。

100m走の場合でもある時はローパワー系が必要で、マラソンの場合でもある時はハイパワー系が必要となり、それぞれ個別に変動しているということです。

種目やポジションの「特異性」に合わせた運動能力

スポーツ活動は個別の条件下で行われます。
例えば、250㎞の自転車ロードレースと42・195㎞のフルマラソンとではともに高い持久力が求められますが、それは個々のトレーニング方法(自転車トレーニングかランニングか)によって形成されると考えられます。持久力の発揮の仕方(ペダリングとランニング)が違うわけです。

また、持久力の測定方法も「自転車エルゴメーター」を使うか「トレッドミルランニング」を使うかによって、実際のレース場面での評価は異なります(実際にはランニングベルトとロードランニングではデータが異なることも指摘されています)。

さらに、ボールゲームでは、ゲーム状況が複雑に変化するため、選手のランニング能力も非常に複雑です。

例えば、サッカーでは「ボールを保持してのランニング」と「ボールを保持しないディフェンスやオフェンスでのランニング」などはポジションによって異なりますし、ゲームの継続時間やランニングの速度、頻度などにより、多様なトレーニング方法が考えられます。

「スポーツのひろば」2024年1・2月号より

タイトルとURLをコピーしました