オシムの遺産 彼らに授けたもう一つの言葉|スポーツ本Review

オシムの遺産
彼らに授けたもう一つの言葉
島沢優子(著)竹書房 2023年
1,760円(税込) 256ページ

「それでも人生は続く」「もっと上を見ろ。空は果てしない」「お前が指示を出したらその選手が下手になる」「限界に限界はない。次の限界があらわれる」「汗をかく選手を大切に扱う。それが我々のチームだ」「サッカーのやり方ではなく、”サッカーをすること”を教えなさい」「ピッチ上で起こることは人生でも起こりうる」「コーチは調教師ではない」「やるかやらないかはお前が決めろ」「レーニンは『勉強して、勉強して、勉強しろ』と言った。私は選手に『走って、走って、走れ』と言っている」「作った人間ならそれを変えることもできる」……。
 
 本書で紹介されているイビチャ・オシム(享年80歳)の言葉です。そのどれもが含蓄を含む言葉であり、ことサッカーに限らず、スポーツ界に身を置く者の一人して、また日常生きていくうえでも参考になる言葉と言えないでしょうか?私自身一番惹かれた言葉は「コーチは調教師ではない」。日本のスポーツ界では、長年コーチ・監督の指示には絶対従わなければならない。自分自身の頭で局面を打開できるような選手がなかなか育たないという土壌がありました。そこに体罰・暴言といったパワハラ・暴力を容認する温床があるとも指摘されています。

 サッカーに興味をもっている方ならご存じと思いますが、オシム氏は2003年から2007年までの5年余という短い期間でしたが日本サッカー界に多大な貢献をした人物です。ジェフユナイテッド市原・千葉をJリーグで優勝争いができるクラブまで育て上げ、最後の2年間は日本代表監督として活動。その後の日本サッカーの躍進ぶりを見ると同氏が選手や関係者たちに残したこれらの言葉が大きく花開いたとも言えます。

 著者は言います。「オシムを詳しく知らない若者や指導者は増えている。この人の足跡と体温を未来に繋げなくては!そんな衝動に揺さぶられ21年春から取材を開始した。かかわった人達に聞いて回るとそこには「もう一つのオシムの言葉」が存在。各々が直接授かった「唯一無二の言葉」に日本サッカーの未来を拓く鍵が隠されていた。これは未来の子供たちのために書いた」

今まさに日本サッカー界は、男女問わず世界で活躍の場を広げています。あなたならどの言葉をレガシーとして受け止めますか? 是非一読をお勧めします。

「スポーツのひろば」2023年11月号より

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