スポーツ栄養も曲がり角?|SPORTS×TOPICS

スポーツをする人は、何をどう食べたら良いのか

私の体験から始めます。妻が一か月ほど入院し、食事をすべて自分で作ることになったのを好機に、体が求める健康になる食事に努めました。後から振り返ると、米とパンは少なめ、野菜・肉・魚は多めで、米飯のおかず(お供)ではなく、それだけで美味しい薄味になっていました。

その後、栄養と料理の本を乱読してみて、「緩やかな糖質制限」を提唱する山田悟医師の著作が自分に合うことを発見しました。他にも「糖質制限」を提唱する臨床医が、多くの著作を発表しています。これらの「糖質制限」は、従来の糖尿病の治療法や栄養学の常識を大きく変えるコペルニクス的転回(天動説から地動説への大変動)に例えられるものでした。そのポイントは、「糖質こそ命(糖質だけが主なエネルギー)」から、「糖質だけじゃない」という考え方への転換です。

「糖質制限」の始まりは糖尿病対策で、血糖値を上げないためには摂取する糖質を少なくすれば良いという、明快な論理から成り立っています。従来は、摂取カロリーを少なくしつつ、炭水化物中心の食事(炭水化物6,タンパク質・脂質が各2,など)が標準でした。

炭水化物は、糖質+食物繊維ですから、炭水化物が多い食事では血糖値が上がり、それをインスリンで下げるという、イタチごっこのような治療になります。米国の糖尿病学会は、2020年に「糖質制限」に関するエビデンスが多いことを認め、治療法に取り入れました。ここまでは糖尿病の治療のための「糖質制限」ですが、糖尿病の病人食は少なくとも一食は主食(米・パン)抜きになり、一般人には向きません。

一般向けは「緩やかな糖質制限」で、米やパンを少なく、糖質の多いイモ類や果物は控えめ、酒は蒸留酒か糖質オフのビールなど、家族と一緒に食事をしながらでも、実行可能な食事です。これらの制限によって、メタボ、糖尿病、高血圧など生活習慣病を避けながら、健康で動ける身体をつくる食事法です。

スポーツ選手にも「糖質制限」の波は広がっています。例えば『アスリートは脂で走る!長友佑都選手の食トレ実践料理教室』(2019年プレジデント社)では、サッカーの長友選手が実践している糖質を減らし、タンパク質・脂質をしっかり摂る食事を紹介しています。

前号で紹介した『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(「ひろば」6月号)の1週間分の食事表を見ると、グルテンフリーに変えただけでなく、糖質の少ない食事になっています。スポーツ選手にも適度な「糖質制限」は、有効なのではないでしょうか。

ただ「糖質制限」への道は一直線には進まないでしょう。従来の栄養学(香川式栄養学、食品成分表など)や、糖尿病専門医などからの抵抗があり、農水省の「食事バランス」・厚労省の食事摂取基準の壁もあります。一方で、「米国からの風」に弱い日本人は、米国糖尿病学界の影響を無視できないでしょう。そうした紆余曲折を横目に見ながら、自分の体を実験台にして「緩やかな糖質制限」を楽しみたいと思っています。(ひろば編集委員・西條晃)

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