軍隊とスポーツの近代|スポーツ本Review

戦時下のスポーツとは?

第二次世界大戦中、日本軍や政府は欧米生まれのスポーツを敵視し、弾圧した。一般的に、戦時下のスポーツはこのように理解され、「最後の早慶戦」をはじめとして、多くの映画や小説で描かれてきた。

軍隊とスポーツの近代
高嶋航(著) 青弓社(2015年)3,400円+税
A5判・442ページ

たしかに、戦時中に甲子園の中等野球(現在の「夏の高校野球」)は中止となり、「ストライク」や「アウト」といった野球用語は、「よし」「ひけ」と日本語化された。テニスやバレーボールは、「男らしくない」「戦争に役に立たない」とされ、大会も中止された。

しかし一方で、中国やフィリピンなど、国外に進駐した部隊では、野球などのスポーツ大会が行われることもあった。イギリス生まれのラグビーは、「闘球」と名前を変えながらも、戦時下でも続けられた。国内の労働者や女性に対しては、実はバレーボールなどのスポーツをすることが奨励すらされていた。

このように、複雑に入り組んだ軍隊とスポーツの関係を、どのように理解すればよいのか。著者の高嶋航氏が挑んだのは、このなぞを解き明かすことである。その過程で、軍隊で行われたスポーツの事例が多く取り上げられ、軍人のスポーツに対する考えも紹介される。そして、「実際には戦争末期ほど陸軍や政府が国民全体の体育を重視したときはなかった」という、驚くような見解まで示される。

全体で400ページを超える歴史学の専門書で、読むのは少し大変かもしれない。しかし、戦時下のスポーツ、軍隊とスポーツという問題を考えさせてくれる、貴重な一冊となることは間違いない。
(中村哲也)

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