アスリートの科学|スポーツ本Review

2020年7月に刊行された『アスリートの科学』の著者は、国立スポーツ科学センター(JISS)のセンター長・久木留毅氏です。スポーツ科学センターに隣接するナショナルトレーニングセンター(NTC)とともに、常に日本のトップアスリートとその環境を見られる絶好に位置にいます。この本は、トップアスリートを支える最新の科学・技術を分かりやすく簡潔に紹介しています。

「アスリートの科学 能力を極限まで引き出す秘密」
久木留毅(著)
2020年 講談社ブルーバックス

「記録はなぜ伸びるのか」という疑問について、日本の男子100メートルの記録が伸びた要因、水泳ではスタート・ターンや水着の変化、スピードスケートでは練習環境の変化、サッカーのデータ分析力、などを取り上げて疑問に応えています。「サイエンステクノロジー」では、パラスポーツの車いすや義足の進化、ハイスピードカメラやGPSなどの技術的進歩がサッカーやテニスの試合に影響を与えている。

「運動・栄養・休養」では、食事のタイミングや最新のリカバリー(回復)法、そのほか「ウエイトコントロール」や「水分補給」「暑さ・寒さ・高地など環境とトレーニング」「コーチングの最前線」など、スポーツ界全体を眺めて、20世紀末から21世紀初頭に起きた大きな変化をダイジェスト的・網羅的に述べています。トップアスリートの身体そのものではなく、それを支えている最新の科学・技術を”鳥の目“で見ることができます。

角川ソフィア文庫の『アスリートの科学』は、2003年に刊行された『運動科学―アスリートのサイエンス』の文庫化です。サブタイトル「身体に秘められた能力」に見られるように、20世紀末に明らかになった人間の身体そのものがもつ神秘的な能力を描いた本です。

「アスリートの科学 身体に秘められた能力」
小田伸午(著)
2013年 角川ソフィア文庫

運動するときのエネルギーはどのように生み出されるのか(乳酸は疲労物質ではなかった)、筋肉は関節をまたいでついているので、それをうまく動かす方法、「走りの科学」では「蹴る走り」は間違いだったこと、当時新しい話題だった「2軸動作」について、大学で学生に教えている実践に基づいて、詳しく展開しています。

『アスリートの科学』という題名は同じでも、時代もテーマも違う2冊の本を読むことで、アスリートの身体で起きていることと、アスリートを支える最新の科学・技術の全体を知ることができます。

タイトルとURLをコピーしました