アスリート盗撮|スポーツ本Review

「盗撮」とは一般的には「撮影の対象者あるいは対象物の管理者に了解を得ることなく隠れて撮影する事」(広辞苑第7版)といい、通常、衣服で隠されている下着または身体を撮影することが迷惑防止条例違反で処罰の対象になるが、ユニフォームを着たアスリートの胸や下半身をアップにするなど性的な意図で画像や動画を撮影されたケースである。…と始まる本書の出だしに興味を惹かれた。

長年放置されてきた盗撮問題に光をあてた1冊!
共同通信運動部(編)ちくま新書(2022年)

スマホで女性の下半身を盗撮し、それらの画像や動画がインターネット上に拡散され逮捕者も相次いでいる、というニュースをよく目にする。更に、盗撮した写真や動画が取引される地下マーケットさえ存在しているという事実に盗撮を巡る状況が底なしであることに憤りさえ感じる。

性的な撮影被害や画像拡散の問題は、スマホの普及で駅構内や商業施設、学校、航空機内でも急増しているが、そもそも国内の「盗撮行為」は刑法に規定されておらず、全国一律に盗撮を規制する法律がないと本書は指摘している。仮に咎められても撮影地された場所(自治体)で盗撮に関する条例規定がなければ罪には問われない、更に条例なので罪も軽い(10万円程度の示談金等)という土壌も手伝い盗撮がなかなかなくならないという側面もあると言います。

スポーツ界でも、盗撮は長年問題視されていましたが、事実上は放置されてきていました。しかしながら、被害を受けた現役女性アスリートが勇気ある声を挙げたことで止まっていた時間が動き出し、2020年11月JOCや日本スポーツ協会等7団体が被害撲滅に取り組む共同声明を発表。1年延期され開催された2020東京五輪・パラリンピックで競技会場での禁止行為ルールに「性的ハラスメント目的の疑いがある選手の写真や映像の撮影」が追加されるなど事態は前に動き出す。

盗撮被害者や元アスリートの声に耳を傾け、加害者側の動機や心理にも取材範囲を広げて掘り下げることでどこに問題の本質があるのか? どこに解決の糸口があるかを女性の視点で2年に及ぶ綿密な調査報道で問題の核心に迫った大作。スポーツ界に身を置く者の一人として是非目を通して欲しい1冊です。 (ひろば副編集長・園川峰紀)

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