パリ五輪控え IOCが方針転換|ロシア・ベラルーシ選手の国際大会参加をめぐって

ロシアによるウクライナ侵攻から1年以上が経過しました。今なお戦火が続くなか、選手の国際大会出場をめぐってスポーツ界が揺れています。

これまで国際オリンピック委員会(IOC)は、ロシアと同盟関係にあるベラルーシの選手・役員を国際大会に参加させないよう国際競技連盟や大会主催者に要請していました。しかし、今年1月に声明を発表し、中立の立場を条件に両国選手の復帰検討の方針を示しました。パリ五輪を翌年に枠えての方針転換。その理由についてIOC理事会は、国連人権理事会が国籍だけを理由に選手や役員を国際大会ら締め出すことに「深刻な懸念」を示したことへ返答であったと説明します。

国連からの勧告とは

これに対し、当然のことながらウクライナ・オリンピック委員会がパリ五輪ボイコットを示唆し、またラトビアなどバルト3国やポーランドなども異議を唱えています。IOCの方針転換の理由と具体的な返答の中身を少し詳しく示したいと思います。

2022年9月1日付で、国連人権理事会が任命した2人の特別報告者(国連人権システムにおける独立した専門家集団の構成員)から、IOCバッハ会長宛てに質問・意見書が届けられました。ここには、「深刻な懸念」とともに6項目の質問も記されており、60日以内の回答が求められていたのです。
 特別報告者の勧告には拘束力はありませんが、対応によっては国際社会から厳しい批判にさらされることは間違いなく、それ故IOC理事会は質問・意見書に誠実に向き合わねばならなかったと思われます。

自律した決定ないIOC

理事会の返答は以下のようなものでした。

昨年12月の国連総会で採択された「持続可能な開発の実現要因としてのスポーツ」決議には、「主要な国際スポーツ・イベントは、平和、相互理解及び国際協力、友情及び寛容の精神で、またいかなる種類の差別もなく組織されるべきであり、そしてそのようなイベントの統一した和解的な性質が尊重されるべきである」と記されており、国連のオブザーバーであるIOCはこれに従うとしました。

そして、国連がロシアとベラルーシへの制裁を決定しないかぎり、IOCは両国の選手役員を国際大会から除外することはできないと答えたのです。

つまり、IOCは国連決議に従うとしただけで、自身の方針転換への反省がなく、組織として自律した決定も下さなかったのです。五輪の理念や目的に照らした検討もないままでは、ウクライナの関係者はもちろん誰をも納得はしないでしょう。(新スポ連副理事長・青沼裕之/武蔵野美術大学教授)

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