秀岳館高校のサッカー部問題と部活動の地域移行

2022年4月、熊本県の私立秀岳館高校のサッカー部員が、コーチから暴行を受けた動画が拡散した。当日、暴行したのはコーチ一人であったが、その後、監督による隠蔽工作や虚偽の説明、過去の暴力も発覚し、同校はコーチを懲戒免職、監督も依願退職することとなった。

部活動の指導者による暴力は、日本のスポーツ界において、いまだに暴力が存在していることに強い憤りを感じる。しかし一方で、問題の発覚した指導者が、社会の批判にさらされ、スポーツの現場から退場を余儀なくさせられるようになったことは評価できる。スポーツ界から暴力をなくすためには、暴力を容認する指導者の追放が不可欠だ。

一方で、暴力の起こりにくいスポーツ環境づくりも重要だ。部活動で暴力が起きやすいのは、1校に各競技のクラブが1つしかないため、生徒は、事実上、指導者やチームを選択することが難しいからだ。現状では、自校のクラブの指導者や指導方法、活動内容に不満があっても、生徒には、転校して別の学校で競技を続けるか、その競技を辞めるかの2つしか選択肢がない。

こうした状況を根本から変えうるのが、現在、スポーツ庁で議論されている部活動の地域移行だ。同庁は、2023年度から3年間を部活動の「改革集中期間」として、部活動の地域移行に本格的に取り組む姿勢を見せている。部活動の地域移行が実現すれば、生徒は自分が所属するクラブを立地や指導方針、活動内容等に基づいて自由に選択できるようになる。それにより、暴力的な指導者のいるクラブは、生徒自らの選択で避けることができるようになるのだ。

部活動の地域移行には、受け皿となるクラブの整備や利用する施設の整備・調整、コーチ等の人材育成・資格整備、経済的に厳しい家庭への支援などの課題もある。これは、1970年代から何度も挫折してきた難題だが、今度こそは日本スポーツ界の悪弊を一掃する契機となることを期待したい。(ひろばライター・中村哲也)

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