様々な社会問題が噴出するなかで、スポーツに関わって断続的にメディアに取り上げられる問題があります。それが神宮外苑再開発問題です。正式には「神宮外苑まちづくり」と呼ばれるもので、各種スポーツ施設を建て替えつつ、商業施設を組み入れるなどして大規模な再開発を行うものです。
この大開発事業の中で、特に問題視され、市民の反対運動とともに著名な音楽家なども反対の意思表明をしているのが大量の樹木伐採の問題です。
その伐採の原因となっている「老朽したスポーツ施設の建て替え」についていくつかの問題点を提示することとします。
この事業のウェブサイトには、次のような記載があります。
「世界基準の〝開かれた競技施設?を新設。施設間には広大な中央広場を設け、新たなスポーツとの関わり方を創出。誰もがスポーツをもっと楽しめる未来へ。」
しかし、ラグビー日本代表の平尾剛氏は、新ラグビー場(ラグビー場棟)の収容定員が二万五千名から一万五千名に減ってしまうことや、屋根付きにすることにより天候の変化に適応するラグビーの醍醐味を損なうなどの理由で建て替え反対の論陣を張り、既存施設の改修を求めて署名運動を展開しています。(確かにこれでは「開かれた競技施設」とは言えますまい)
また、収容人数減少の要因として、コンサートやイベントへの活用のため巨大なスクリーンをスタジアムに設置するためではとして本末転倒との見解を示しています。
神宮球場は、現在の秩父宮ラグビー場の跡地に建設予定で、バックネット裏にはホテルが建設され、「試合以外の楽しさも満載な」新たな球場として生まれ変わるとしています。事業者や東京都は、老朽化に対し、試合開催を中断せずに同じ場所で建て替えるのは難しいと説明していますが、神宮球場より古い甲子園は2007~2010年の3期をかけて、シーズンオフを利用して改修工事をしており、神宮球場も同様にできると主張する建築家も存在します。「新建築家技術者集団」も、2022年から移転新築ではなく改修を訴えています。
ここまで見てきたように、大量の樹木を伐採する原因としての「老朽化したスポーツ施設の建て替え」は「改修」で代替できる可能性があり、その方向に舵を切れば大量の樹木伐採は避けられます。最後にこのことをお伝えして筆を置くこととします。(ひろば編集委員・倉沢知裕)