山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
ハーバード大学の著名な進化生物学者・リーバーマン先生の最新刊「運動の神話」が出版されました。現題は ”Exercised” です。
「身体運動?骨格筋がエネルギーを使って生み出すあらゆる身体動作。エクササイズ?健康とフィットネスの維持・向上を目的として行われる、計画的で構造化された、反復を伴う自発的身体活動。エクササイズド?イライラさせられる、心配な、不安にさせられる、悩まされる。」との書き出しで始まり、「だが何より、運動は不安と混乱の元となった。なぜなら、運動が健康に良いことはわかっていても、十分かつ安全に楽しく運動することができない人が大部分だからだ。私たちは、運動に悩まされているのである。」と指摘しています。
米・メイヨークリニックのレヴァイン先生は「座りっぱなしが死を招く(GET UP!)」で、13時間以上座っている生活習慣に対して、意図的なエクササイズ運動以外での非運動性活動熱生産の重要性を指摘しています。週末にテニスをやったりジムで週数回エクササイズを実施するだけでは十分な身体活動量を確保できないようです。
「エクササイズ」は、メタボリックシンドロームやロコモティブシンドローム・フレイル(虚弱)などの改善のための有酸素能力向上や筋(力)の増加などを目的として定期的に計画・実行されます。ただ、エアロバイクやランニングベルトでの有酸素運動やバーベルやマシンによる筋力トレーニングなどが「楽しいかどうか」には個人差があるように思います。一方ストレッチングやヨガやティラピスなどはリラックス感が得られるので「快い」もののようです。
どうやら、スポーツは 「楽しい」からやるようなのですが健康状態の改善にどの程度貢献しているのかは不明確です。一方エクササイズは「やらないと不健康になる!」という強迫観念があるので逆説的に「楽しくないのでやらなくなる」ようなのです。実は、文部科学省の「日本人の運動実施状況」に関するデータは、階段上りやウォーキングや筋トレも含めて「スポーツ実施」と同等に扱っているようで「楽しくやるスポーツ」と「いやいややるエクササイズ」を同等に評価しているようです。
〈参考〉
リーバーマン(著)中里京子(訳)『運動の神話』(早川書房)2022年
レヴァイン(著)鈴木素子(訳)『座りっぱなしが死を招く(GET UP!)』(角川書店)2016年
「スポーツのひろば」2024年9月号より