山崎 健(やまけん先生)
新日本スポーツ連盟附属スポーツ科学研究所所長。新潟大学名誉教授。専門分野は運動生理学、陸上競技のサイエンス。マスターズM65三段跳&3000m競歩選手兼前期おじいさん市民ランナー。
週末のテニスや野球は「心のリフレッシュ」にとって必要(やめられない)なものなのですが、それだけではメタボリック・シンドロームなどの「基礎疾患」を防ぐことはできないようです。単純に考えると、365日の〝基礎代謝+活動代謝? という「消費カロリー」と食事で摂取される「摂取カロリー」とのバランスで体重の増減は決まるのですが、日常の「生活習慣」としての行動パターンは意外と意識されていないようです。
例えば、健康づくりの基準とされる週3~4回20分のランニングをしていても、仕事や家で毎日13時間座っていれば、睡眠時間を除いた残り3~4時間を「どう過ごしていたのか」が問題となります。食事での摂取カロリーとの関係も問題となります。米・メイヨークリニックのレヴァイン先生は、同じ体格の人であっても、日常の生活パターンで1日の消費カロリーが2000kcalも異なることを指摘しています。
ところが人類進化学のポンツァー先生は、「一般的な総カロリー消費量推定法は間違っている」として、私たちの身体は機械と異なり大変に複雑であり、いろいろな要因を加算しても1日の活動レベルと1日の消費カロリーとはほとんど関係がない?との見解を示しています。そして、狩猟採集民である活動的なアフリカのハッザの人たちと欧米の人たちとのエネルギー消費量はほぼ同等であるとの測定結果から、1日のカロリー消費量を一定の狭い範囲に収めるモデルを提示します。つまり運動量が増えても、身体はそれ以外の活動にエネルギーを費やすのを控え、1日のカロリー消費量を一定の範囲に抑えるメカニズムが働いていると指摘します。ちなみに、運動に対する適応としての「エネルギー効率の改善」はエネルギー消費量を若干低下させることが考えられますが、「訓練」と「技術」の影響は予想外に小さいことも指摘しています。
〈参考〉ハーマン・ポンツァー『運動しても痩せないのはなぜか』、草思社、2022年
「スポーツのひろば」2024年10月号より